株式会社日本資産運用基盤グループ 代表取締役社長の大原さんとWealthPark研究所所長の加藤が対談。後編では、自己表現や投票としての投資、オルタナティブ投資の可能性、自分で自分の人生を創造するための資産運用の重要性について、意見を交わしました。
株式会社日本資産運用基盤グループ 代表取締役社長 大原啓一(おおはら けいいち): 2003年東京大学法学部卒。2010年ロンドンビジネススクール金融学修士課程修了。野村資本市場研究所を経て、2004年に興銀第一ライフ・アセットマネジメント(現アセットマネジメントOne)に入社。日本・英国で主に事業・商品開発業務に従事。同社退職後、マネックスグループなどから出資を受け、2015年8月にマネックス・セゾン・バンガード投資顧問を創業。2016年1月から2017年9月まで同社代表取締役社長。2018年5月に日本資産運用基盤株式会社を創業し、代表取締役社長に就任。
WealthPark研究所 所長 / 投資のエヴァンジェリスト 加藤航介(かとう こうすけ):「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための研究、啓発のための情報発信を行なう。2021年より現職。
投資が「する側」と「される側」の双方の自己表現になると、社会が一つにつながっていく
加藤:我々は、洋服や持ち物などで自己を表現し、自分らしく生きることができます。近年では、自分で事業をすることで自己表現をすることが身近になってきたと思います。副業やフリーランス、NFTが徐々に浸透し、個人の才能が可視化されやすくなった結果、投資する側も「この人」、「この会社」に賛同する意味を込めて、例えば「このアートを買う」、「この会社の株を持つ」という選択をする時代に突入していくのだと思います。自分の資産が自分のつくりたい世の中や共創・共生を表現するポートフォリオになっていることは素晴らしいですよね。
大原: 私自身が経営者になって理解したのは、価値観に共感してくださる株主とそうではない株主では、投資の意味がまったく異なるということです。理屈では、1億円の調達先がどこであれ、株主が誰であれ、1億円は1億円。その1億円によって雇用できる人数も使えるお金も変わらない。ところが、共感による投資では、投資される側に「1票をいただいている」という感覚が生まれるんですよね。こうした投資がいろいろな領域に広がっていけば、社会に大きなインパクトを与えると思います。
加藤:株式や国債などが投資信託としてパッケージ化されて、多くの市民が投資の世界に参加できることになりました。ただし、少し便利になり過ぎたところもあるかもしれませんね。パッシブ・ファンドは20世紀最大のイノベーションと言っても過言ではない一方、それだけを盲目的に見ている風潮に疑問を感じることがあります。例えば、事業を興した友人に対するベンチャー投資、今はまだ資産として認識されていないものへの投資など、投資する側とされる側が何かを一緒につくっていく本来は大切な感覚が全く学べないからです。
一方で、プロの投資家でもない限り、個別銘柄や個別の投資案件を自ら選ぶのはなかなか大変なことで、そもそもそこに時間を使える人は限られてきます。現実的には、資産の7〜8割は世界株のパッシブ・ファンドや、利回りや投資期間など分かりやすい優良な金融商品に投資をする。ただし残りの2〜3割は、自分が身につけたい服を買ったり趣味に時間を使ったりするように、投資にも自己表現を入れていくのが良いと思っています。そして、若い頃から、そのような自己表現を当たり前にしていくことが大切でしょう。さらに尖った自己表現を望まれる方は、大原さんのように自分の能力を最大限発揮できる起業を選んでいくのでしょう。
自分で自分の人生を創造するには、自分にとっての適切な投資や資産運用が欠かせない
大原: 今の社会の流れからすると、自分の価値観や自己表現を投影しやすいオルタナティブ投資は、今後ますます伸びていくと見ています。資本主義が発展し、何もかもが数値化され手触り感のない投資が発達してきましたが、今は逆にオルタナティブ投資やクラウドファンディングといった投資手法が台頭してきました。人間の営みの手触り感や、共創・共生・共存の感覚が得られる仕組みが、資本主義の文脈で生まれているんですよね。資本主義は自らの矛盾を克服しようとしていて、その一つの現れがオルタナティブ投資なんだと思います。私は資産運用会社出身ですので、パッシブ・ファンドや上場された証券の運用が主流な世界にいましたが、年齢を重ねて社会や子供との関わりを深める中で、オルタナティブ投資の重要性や必要性を理解するようになりました。
加藤:単に金融用語としての「オルタナティブ投資」としてではなく、資本主義がその矛盾を自ら克服するという意味でのオルタナティブ投資、実に考えさせられます。
先人たちの努力によって、私たちは成熟した社会に生きています。社会をより前に進めるためには、より多くの人が国や企業にぶら下がらずに自分の足で立っている、経済的に自立している状態が大切だと思います。これを個人に置き換えると、企業年金や公的年金に任せっきりにするのではなく、事業だったり、金融資産や不動産だったり、オルタナティブ資産だったり、自分の人生のために自分で選んだ投資や資産運用が大切ということだと思います。今私たちがつくっているオルタナティブ投資のプラットフォームとは、個人がより自立していく社会のための土台と考えています。
大原:私のライフミッションも、まさに自立した個人が強みを生かして活躍する未来をつくることです。日本資産運用基盤グループ(以下、「JAMP」)はそうした私個人の想いの延長線上で創設した事業ですので、加藤さんの言葉に強い共感を覚えました。
役割分担はエンドユーザーが最適な商品・サービスを選べるための仕組み
加藤:金融業界の商品・サービスの課題として、「手触り感がない」、「最適化されていない」といったことをご紹介いただきましたが、JAMPのビジョンを達成するために、フェーズ1として具体的に力を入れていきたいところを教えてください。
大原:フェーズ1として力を入れていきたいポイントはいくつかあります。まずは、運用会社様や証券会社様が、資産運用商品やサービスを生み出しやすい環境をつくることです。ラップサービスのインフラや、投資信託の委託業務のインフラは、創業時から力を注いできました。そして次のフェーズ2に近づいていくと、商品・サービスが充実化・多様化し、一般のお客様側から「選べない」という悩みが出てくることを想定し、アドバイザーの育成を進めています。また、地銀・信金といった地域金融を支える地域金融機関様に、システムや有価証券運用といった部分を任せていただくことで、彼らしかできない顧客接点に集中していただくことにも注力しています。手前味噌ですが、今のところは想定していたフェーズ1、フェーズ2の文脈に沿って、事業展開を進めることができています。
加藤:複数の商品を包んで(ラップして)最適な商品を用意することにとどまらず、その先も見据えて、アドバイザーの育成まで進めていらっしゃるのですね。まさに、一般の方々が資産運用を始めやすい環境を着々と整えられているのですね。
大原:はい。その2つが揃って初めて、ゴールベースアプローチ(GBA)型のラップサービスが浸透していくのだと思っています。
加藤:ゴールベースアプローチには、お客様の人生について壁打ちできるパートナーが必要です。これは地域の金融機関様だからこそ、できることですよね。裏側の細かいところはJAMPが情報技術部分を引き受けて解決するので、地域金融機関様にはこれまで以上にお客様との対面に時間を使っていただくと言うイメージですね。実は、WealthParkもやっていることは、よく似ているといいますか、まったく同じということに今、気づきました。地域の不動産管理会社様や資産管理コンサルタント様に対して、デジタルでできることはデジタルに転換してもらい、対面でのコンサルティングなどの本業に集中していただくお手伝いをしている。そして一緒に新しい商品やサービスをつくっていくことを目指しています。
つくり手の顔が見えるような投資や資産運用が広がる社会が見たい
加藤:さて、これは素朴な疑問で恐縮なんですが、2018年にJAMPが設立されるまで、なぜ同様のビジネスが生まれてこなかったのでしょうか。
大原:おそらくですが、それまでは金融機関が資産運用サービスを概ね自己完結できていたということなのでしょうね。自前主義は役割分担の真逆で、全体としては効率が悪いはずです。ただ、資産運用業界全体が成長時代にいたので、自前主義が成立していて、非効率の事実が覆い隠されていました。今のように低金利、低成長時代になって、自前主義がサステナブルではないということが表出され、外部に一部の機能を委ねても良いという風潮になったのは、資産運用業界ではここ数年のことなんです。私がJAMPを創業した2018年より前は、「金融機関はすべて自分でやるから誰もそんなサービスは使わないよ」なんて言われて、泣きそうになっていました(笑)。ところが、2018年〜2019年に証券手数料の無料化が進んだことでアウトソーシングが一般化され、その波に乗れたのだと思います。今後は我々と似たような会社も登場するのだと思います。
加藤:IT業界でいう、オープンアーキテクチャやアンバンドリングといった概念が、金融業界に普及し始めたのがちょうどJAMPの創業時期だったということですか。
大原:そうなると思います。他の産業と同じように顧客思考の原理が広がってきたということですね。
加藤:お話を伺えば伺うほど、JAMPとWealthPark、金融と不動産の業界に、共通項が見えてきました。不動産と金融は監督官庁や免許や資格が異なることもあって、なかなか連携できていない部分もありますが、お客様にとっては、金融投資と不動産投資をすべてトータルで考えられるとベストですよね。個人にとっては人生のゴールを実現するための手段が増えるわけですから。私はもともと金融業界にいて、今は不動産業界のDX化や、オルタナティブ投資を扱う会社にいます。「金融村」と「不動産村」、そしてアートやお酒の投資などの「オルタナティブ村」をつなぐことが自分のミッションの一つだと思いながら、今の仕事をしています。
最後に、お互いのミッションや実現したい社会についてもお話させてください。私個人としては、個人がもっと自分の人生にオーナーシップを持ち、主体的に生きていくという社会を、2040年、2050年には見たいんですよね。個々人が資産運用の力を理解し、活用していくことはそのための大きな一歩になると思います。今ある金融投資や不動産投資に加えて、まだ今は資産として認識されていないオルタナティブな投資について、WealthPark研究所がその面白さを伝えていく主体になれればと考えています。また、大原さんが行われているような自分の事業への投資も含めて、投資という概念を包括的に考えることを普及させたいですね。私の子供の世代には、そうした考え方が当たり前になると良いと思います。
大原:ミッションや見たい世界については、加藤さんとほぼ同じ答えになってしまいますね(笑)。投資や資産運用は人生を豊かにする手段であり、より多彩な金融サービスが生まれてくることで、投資が金銭的なリターン以外を超えて人生を豊かにする可能性が溢れていくでしょう。一方で、インターネットが普及する中で、世の中が効率的でなめらかになり過ぎたところもあって、個人的にはもう少し手触り感がほしいところです。つくり手の顔も見えるような投資や資産運用が広がっていくことで、2040年、2050年にはもう少しアナログでヒューマンタッチなものも増え、個人の人生がより豊かになることを期待しています。
加藤: 本日は色々なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
対談にご協力いただいたレストラン「MUJI HOTEL GINZA」
今回の対談では、銀座にある「MUJI HOTEL GINZA」のレストラン「WA」で実施いたしました。ご協力ありがとうございました。
無印良品を体感できる旅の宿「MUJI HOTEL GINZA」公式ホームページはこちら
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