魅惑のクラシックカー、その文化的価値と投資資産としての可能性(後編)

イタリア・フランス車のスペシャルショップとして快適なカーライフを提案する『コレツィオーネ』代表の成瀬さんとWealthPark研究所所長の加藤によるクラッシックカー対談。後編では、クラシックカーを支える文化、アジアなど海外投資家の動きや、日本で開催されているクラシックカーラリーイベント、ガソリン車からEV車への転換期におけるクラシックカーの立ち位置などについてお聞きしました。

株式会社コレツィオーネ 代表取締役 成瀬健吾:NATS(日本自動車大学校)を卒業し、自動車整備士の国家資格を取得。その後、インポートディーラーにメカニックとして入社。専業店にて営業職を経験し、株式会社コレツィオーネを設立。現在は第24期目となる。日本自動車大学校評価委員。

WealthPark研究所 所長 加藤航介(かとう こうすけ)‐ プレジデント/インベストメント・エバンジェリスト:「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための研究、啓発のための情報発信を行なう。2021年より現職。

加藤航介のプロフィールはこちら

対談の前編はこちら

国の単位を超えて、人類全体で文化を守っていく

加藤:東京の街にいると、クラシックカーが走っている姿もちょくちょく見かけます。日本のクラシックカーの文化について、欧州などと比べての成瀬さんの見解はいかがでしょうか。

成瀬:欧州の例でいうと、イタリアでは『ミッレミリア』に代表されるレースがありますし、ヨーロッパ諸国でもそれぞれいろんなイベントが開催されています。税制の面でも、たとえばドイツには『Hナンバー』といって製造30年以上経ったクルマは自動車税や保険まで優遇される制度があります。このように、ヨーロッパにはやはり古き良きものを大切に継承する文化が根付いていますよね。さきほどの税制の話ではないですが、日本にもより古き良きものを大切に次の世代につないでいく価値観を成熟させていくことが必要でないかと思っています。

加藤:なるほど。個人的には、既にあるストックを社会の豊かさにつなげていく、古くからの文化を大事にしていくという考え方には賛同します。一方で、日本はヨーロッパ以上に歴史の長い国でもあり、古き良きものを継承していく思考性はありますよね。たとえば、京都を初めとしてたくさんの神社仏閣が資源として残されていますし、日本も長年クルマを開発してきた主要国の一つですので、そうした文化がクルマにも及ぶべきなのかなと思います。イタリア車・フランス車だけでなく、国産のクラシックカーも世界に誇れるようにしていく、日本のクラシックカーが世界のレースで観られるなども大切なのでしょう。

成瀬:そうですね。大事なのはバランスで、古いもの、新しいもの、どちらかに偏りすぎるのはよくないと思います。古いものを守り過ぎてクルマの技術が発展しないというのも寂しいですし、一方で良いものは継承させていき、変わらなければならないところは変えていけるといいですね。ちなみに、いま日本の古いクルマは世界的にも評価が高まっていて、価格も上がっているのですよ。

加藤:日本製のクラシックカーが海外から価値を見出されるのも素晴らしいことですね。もちろん、それはメーカー毎の新車のブランディングなどにも大きく影響すると思います。今の時代、自国の文化を自国民だけで守っていく姿勢は時代遅れで、良いものは国の単位を超えて人類全体で守っていく仕組みが当たり前になってきています。日本人がイタリア車・フランス車を守って、逆にイタリア人やフランス人が日本車を守るといったことが起きていくと、様々な可能性が広がっていくと思います。

それは日本の観光地などでも見て取れます。ニセコは世界一のパウダースノーで有名ですが、スキー離れが進む日本人だけではそのアセットを守ることができない状態でした。そこで、外国人に不動産資産を持ってもらい、さらに町づくりにも参加してもらうことで、ゴーストタウン化を防ぎ、今ではかつてより多くの人々が抜群の雪質でスキーからアフタースキーまでを楽しむことができるようになりました。まさに、優良なストックを世界視点で継承していくという、成功モデルだと思います。

ただし、成瀬さんがおっしゃる通り、過去に作ってきたものを守るだけでは進歩がありません。我々もベンチャー企業ですし、新しいものを開拓し、作り上げていくことはこの先の発展のためにも非常に重要だと考えています。

ところで、中国やアジア諸国にクラシックカー文化はあるのでしょうか?経済が発展し、富裕層がいる国にとってクラシックカーは果たしてどのような存在か、興味があります。

成瀬:我々の店でも中華圏の方が買いに来られて、登録はしないまま日本のガレージに資産として置いておかれるというケースはありますよ。高級車が好きな富裕層は世界中にいますし、潜在的なクラシックカーファンも相当数いるのだと思います。

加藤:なるほど。中国の方はお金には敏感ですし、高級品嗜好や社交の場での贈答文化も強いです。また、経済力も高まったことでバイイングパワーがあるので、ワインや不動産のように中国マネーが国際市場に参加すると、その市場の構図や値付けが大きく変わることは結構あるんですよね。

過去の複数のクラシックカーの価格指数を見ると、ファインワインでみられたような中国発と見られる極端な変化は見受けられませんが、もともと個体数が少ないクラシックカーですから、中国からの投資の盛り上がりで、価格帯が変わる可能性はあるかもしれません。まだアジア圏内の投資家は本格的に参入していないのか、あるいは何らかの購入できない理由があるのか、そのあたりは引き続き調べてみたいと思っています。

スタートからゴールまでの正確さを競う

加藤:さきほどイタリアの『ミッレミリア』のお話が出ましたが、日本でもそれを模したクラシックカーラリーが毎年開催されていますよね。イタリアではいつ頃にはじまったのでしょうか。また、クラシックカーを実際に楽しむ手段のひとつとしてのラリーの魅力についてもうかがいたいです。

成瀬:『ミッレミリア』はもともとスピードレースで、1927年から1957年まで行なわれた伝説的な公道レースでした。ただ1957年に大きな事故があって中止されてしまい、そこから時を経て1977年にタイムトライアル方式で復活したのがいまのスタイルです。

タイムトライアルとは、たとえば10メートルを6秒で走るとか、2キロ先に10分で到着するといった、スタートラインからゴール地点までの走りの正確さを競う競技です。この走り方は、かなり難易度が高いんです。スタートこそ誰でもできますが、決められたタイムで計測器を踏むのは想像する以上に難しいんですよね。計測するコーナーやゴールラインが坂道であったりと、本当に奥が深いんです。

加藤:レースは数日にわたるものもあると聞きましたが、どれくらいの距離を走るのでしょうか?

成瀬:『ミッレミリア』とは1,000マイルのことで、つまり1,600キロです。日本では『ラ・フェスタ ミッレミリア』というイベントで4日間かけて走破します。その他にもいろんなイベントがあり、1日のものもあれば1泊2日のものもありますよ。

加藤:え!ということは1日300~400キロも走るということですか。4日間完走すること自体が大変だということは私でも分かります。ものによっては100年以上前のクルマでエンジンや車体を傷めないように走るのでしょうし、日が暮れて間に合わないとか、そういう時間との戦いもあったりするんですか?

成瀬:ありますね。日が暮れるというよりクロージングタイムがあるんですよ。その時間までにゴールに辿り着かなければそのままリタイアとなります。私は毎年出ていますが、乗っているクルマが1961年製と、まだ新しい年式なので、それほど大変でもありません。ただ1930年代や20年代のヴィンテージクラスに乗っている方は本当に大変だと思います。そのクラスに比べると私のクルマはひよっこというか、赤ん坊みたいなものですね(笑)。

加藤:1961年の車が赤ん坊ですか(笑)。すごい世界ですね。目標は完走なんでしょうか?

成瀬:そうですね、あとはできるだけ良い順位を狙います。ただ製造年代でクラス分けされていて、タイムトライアル上は同じ成績でも、古いクルマのほうが点数が高い仕組みがあるんです。計測器を1番正確に踏んだクルマは何点、上位5位までは何点というように決められている中で点数の積み重ねを競うんですが、例えば同じ500点を取っても年代の古いクルマのほうが高く計算されます。

これはゴルフのハンディキャップみたいなものですが、相当昔のレーシングカーから、私が乗っているようなそこそこ古いクルマまでが、同じレースで競えるようなルールになっているのです。レースで勝つためには、色々な要素が影響するし、そこが面白さなのです。

加藤:年式も排気量も、スポーツカーも普通のクルマも参加して、同じ競技をやっているということですか。柔道とかで言えば無差別級のような感じでしょうか。いやー、面白そうです。お話をうかがっているだけで、参加される方々の笑顔が浮かんできました。私も知人から今度クルマの助手席に乗って参加しないかと誘ってもらっていて、近いうちに是非ともその雰囲気を味わってみたいです。成瀬さん、今年の参戦もがんばってください。

見る楽しさ、乗る楽しさ、人とつながる楽しさ

加藤:クラシックカーを買うときに多くの人が感じる壁は、「誰から買うか」だと思います。クラシックカーは、普通の中古車のようなワンオーナー車、ツーオーナー車という世界ではないでしょうし、信頼できる先から買いたいものですよね。

クラシックカーの価格はどう決まっているのかも、初心者にとっては未知の領域です。自分が買いたいなと思ったクルマの価格が1,000万円と提示されていたとしても、本当のところは500万円なのか、2,000万円なのか、素人が少し調べても判断がつかないのです。どうやってクラシックカーの市場や価格が成り立っているのか、教えていただけないでしょうか。

成瀬:はい。まずクラシックカーは中古車であるので、新車のような定価は存在しない世界です。そして、一点物に近いクルマも多いので、中古車市場に参照できる価格が必ずあるわけではないのが特徴でして、所有者の希望売却額は大きな要素になってきますね。そして、現オーナーの購入原価、整備履歴、以前に乗っていた方のヒストリーも価格を左右します。機械ですから今日買ったものが明日壊れることも往々にしてありますし、乗り手が変われば調子が狂うこともあります。壊れるか、壊れないかを事前に保障することは誰もできないからこそ、それまでのオーナーの顔や整備歴、どれだけ仕上げてきたかが考慮されるのです。

あとは、クラシックカーの販売方法でポピュラーなのが、我々の店がよく手掛ける委託販売です。一般の中古車のように買取りや下取りでディーラーが一時所有するのとは異なり、現オーナーが所有したままで、興味がありそうな方がいれば、その方にご紹介するという方法です。この場合は、整備費用や利益を載せた金額に納得されれば、購入が決まって持ち主が移転します。

加藤:なるほど。何せ一点物ですし、前オーナーとのつながりがより強い委託販売の方法は、消費者として信頼できるかもしれませんね。成瀬さんがこれまで培われたコミュニティの中でお客様同士をつなぐわけですし、大切な人間関係を壊すようなことはされないでしょうから。

成瀬:ありがとうございます。ただ、繰り返しになりますが、何せ一点物ばかりなので、金額を決めるのに「これ」というものはないことも申しておきます。対話の中での、新旧のオーナー同士の納得感を私は大切にしています。手放される方にも、こういう方に買っていただきたいとか、クルマ自体をよくしていただきたいという強い想いがあるのです。経済的価値だけでは測りきれない、様々な想いがプライシングに働くんです。

加藤:オークションというのもあるのですよね?

成瀬:もちろんオークションのマーケットも海外を中心にありますよ。その場合、オークションの落札される金額、入札された金額のデータは参考になります。一方、海外からクルマを日本に持ってくるのはお金がかかりますし、さらに日本オーナーの方に求められる整備が必要だったりするので、落札価格で乗れるわけではない点は注意された方がいいですね。

加藤:なるほど。ご説明を受けて、クラシックカーの市場や価格について理解が進みました。ここから少し話題を変えて、クラシックカーの未来についても教えてください。現在、ヨーロッパをはじめ世界の流れとして、ガソリン車をなくしていこうという動きがありますよね。EV車の普及が加速していく中で、クラシックカーの立ち位置はどうなっていくのでしょうか。より文化的な存在として見られるのでしょうか。ガソリンが悪者にされて、EVや水素を推奨する時代や社会になったとき、クラシックカーと我々はどう付き合っていくべきなのか。成瀬さんはどうお考えでしょうか。

成瀬:前提として、私自身はガソリン車が作られなくなるとは考えていません。もちろん今後しばらく電気自動車の開発が主流となり、その性能が上がっていくことはあるでしょう。一方で、例えばe-fuel(イーフューエル)などの合成燃料の開発も進んでいるんです。これはガソリンや軽油に替わるCO2を出さない燃料として期待されていて、日本でもその道筋がつけられています。結果として世の中のクルマすべてが電気自動車になって、内燃機関、4サイクルエンジンのクルマがまるっきり姿を消したり、走行できなくなったりすることは考えにくいでしょう。

逆に、そうした電気自動車がマジョリティとなる社会においては、ガソリン車の希少性や文化的価値が上がると見られ、クラシックカーの需要が伸びていくことも考えられますよね。

加藤:確かにそうですね。有名なワインの造り手が高齢で病に臥したとなると価格が一気に上がることや、作家が亡くなってからそのアート作品の価値が上がることを考えると、むしろクラシックカーの価値がますます上がっていく未来も想像できますね。

最後に、これからクラシックカーの世界に飛び込みたいという方に向けて、あらためてクラシックカーの魅力についてのメッセージをお願いします。

成瀬:クルマには、見て楽しむ、乗って楽しむ、購入するプロセスを楽しむ、保有する喜びなど、色々な楽しみ方があります。クラシックカーの世界に入られることは、それらに加えて、人の輪が大きく広がるという魅力があります。今までにない新しい友人ができ、むしろクラシックカー以外について多くを学ぶ機会が得られると思います。ぜひクルマそのものに加えて、クラシックカーを通じて人とつながることの楽しさを味わってほしいですね。楽しい世界であることは私が保証しますので(笑)、臆することなく飛び込んでいただけたらと思います。

また、クラシックカーというとハードルが高いものと思われがちですが、価格帯も非常に豊富です。まずはご自分がどういうクルマが好きなのかを考えてみてください。デザインから入るのもよし、音に惹かれるもよし。走っている姿に惚れ込むのもいいでしょう。ご自分のライフスタイルも考慮されて、自分だけの一台を探すのです。より値段が高いものが自分にとってベストということはまずありません。そこにもまたクラシックカーならではの面白みがあります。また、最近では女性の愛好者も増えてきていますよ。

加藤:『コレツィオーネ』でのクラシックカーとの出会いが、多くの方の人生の新しい扉を開ける機会になるかもしれませんね。これからも成瀬さん、そして『コレツィオーネ』の活動を応援させていただきます。本日はありがとうございました。

今回の対談会場:COLLEZIONE (コレツィオーネ) カーギャラリー

今回は、『コレツィオーネ』様のカーギャラリーにて対談を行わせていただきました。

自分だけの一台に出会える、イタリア車・フランス車のプロショップです。

バラエティに富んだ魅力的なクルマが並ぶギャラリーは圧巻です。

COLLEZIONE (コレツィオーネ)

東京都世田谷区等々力7–2–32

TEL:03–5758–7007 FAX:03–5758–7008

http://www.collezione.co.jp/