⽇本酒の魅⼒を世界へ繋ぎ、⼈々の豊かさや幸せを増やす

伝統ある日本酒と日本文化の魅力を、日本国内外に発信する美意識と知性を身につけたアンバサダーの創出を目的としたコンテスト「Miss Sake」。「2022 Miss Sake Japan」グランプリに選ばれた磯部里紗さんから、Miss Sakeへの応募理由、自身の生き方や働き方、日本酒の魅力を世界に広めるための今後の活動などをお聞きしました。

2022 Miss SAKE 磯部里紗(いそべ りさ):神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。フランス留学中にヨーロッパで開かれていた食品展示会で日仏通訳を務め、日本食・日本酒の魅力がもっと広く世界に通用する可能性を感じ、「日本食や日本酒の海外展開を支援する仕事がしたい」という目標を抱く。現在はパリを拠点としたコンサルティングファームにて、越境ビジネスや東京都や京都市等のフランス向け観光PRに携わりながら、「日本酒を初めとする日本文化を国内外に発信するアンバサダー」であるMiss SAKEの今年度日本代表として、日本酒の国内外PR活動を行う。

WealthPark研究所 シニア・インベストメント・エバンジェリスト 飯田明(いいだ めい): 「すべての人に投資の新しい扉をひらく」というWealthPark研究所のミッションに共感し、2022年9月に参画。投資の研究および情報発信を行う。

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日本酒の素晴らしさ・世界に誇れる魅力とは

飯田:磯部さんは「日本酒の魅力を国内外に発信するアンバサダー」というミッションへの共感からMiss Sakeにご応募されたとのことですが、そもそもなぜ日本酒の啓発活動に魅力を感じられているのでしょうか。

磯部:高校と大学での二度のフランス留学が、日本酒の啓発活動に興味を持った原体験となっています。海外で留学生として暮らす中で、日本という国や日本人としての自分を意識する機会が増え、世界における日本のプレゼンスを高めたいという気持ちを抱いたとともに、そのためには日本の食文化が武器になると強く感じました。留学中には日本の良さを広める活動や、日仏通訳として食品展示会に関わっていましたが、日本の食文化を海外の方に認めてもらえることは私自身の喜びでもありました。

そうした背景から、現在はパリ・ロサンゼルスに拠点のあるコンサルティング企業にて、日本企業の海外進出支援に携わっています。日本が世界に最も誇れるものの一つである、日本の豊かな食文化を海外にもっと伝えていきたく、日本酒のアンバサダーである「Miss Sake」に応募しました。

飯田:なるほど。世界における日本という視点から、日本酒に着目されたのですね。日本の食文化の中でも、特に日本酒に惹かれたのはなぜでしょうか。

磯部:日本酒の素晴らしさは、料理に合わせやすいことですね。「ナデシコプログラム」(Miss Sakeが候補者に提供する研修プログラム)」の一環でワインの講義も受けましたが、ワインの場合は、食材によってはネガティブな結果になるペアリングもあると感じました。その難しさがワインペアリングの面白さや奥深さに繋がるのだと思いますが、一方の日本酒は色々な料理を包み込み、引き立ててくれます。フランスでフランス料理と日本酒のペアリングイベントに出席した際も、日本酒を初めて口にしたという60代ぐらいのフランス人の方が感動されている様子を見て、改めて日本酒の懐の深さに気づきましたね。

飯田:実は、私は普段はワイン派なのですが、今おっしゃられた「日本酒の懐の深さ」というポイントは非常に共感します。我が家では日本酒はお燗で飲むことが多いのですが、ワインペアリングのように要素の点と点を合わせていくというよりも、面といいますか、料理を引き立てる背景のような印象を受けます。温度を変えたり、加水したり、楽しみ方の幅が広い日本酒は、料理に寄り添ってくれますし、身体にもなじみやすいように感じますね。

Miss Sakeの活動を通じて得られた収穫

飯田:磯部さんは「2022 Miss Sake Japan」として、国内外の日本酒にまつわるイベントの参加から、ラジオ番組の出演、YouTube動画の配信など、多岐にわたる活動を行なっていらっしゃいますよね。そうした活動を通じて、磯部さんが得られたことや感じられたことを教えてください。

磯部:「日本酒はこんなにも楽しくて美味しい」と改めて気づけたことは、大きかったですね。「ナデシコプログラム」を通じて自分自身が日本酒の魅力を再発見できましたし、アンバサダーとして紹介・発信をすることで考えさせられることもありました。

一度、友人たちと日本酒パーティーを開催したYouTube動画を配信したのですが、参加者にはこれまで日本酒を飲む機会がなかったという方が本当に多かったんですね。ところが、私の出身地である滋賀県のさまざまな種類の日本酒を紹介しながら、お料理と合わせて提供したところ、「すごく美味しい」と言ってもらえたり、いろいろな感想が飛び交ったりしました。そうした経験から、日本酒のおいしさや楽しさを伝えるアンバサダーの役割の大切さを認識できました。

また、2022 Miss Sake Japan」として、ヨーロッパの日本酒市場で活躍されている方々にお会いできたり、大使にご挨拶に伺わせていただいたり、ワインのマスターソムリエの方とも一対一でお話をさせていただいたりと、出会いに満ち溢れている点は人生において大きな収穫と言っても過言ではありません。Miss Sakeに応募していなければなかった出会いですね。

大切にしていることは「心の赴くままに選択して生きること」

飯田:現在、磯部さんはパリと東京の2拠点で生活されていることから、出会いの幅もさらに広がるのではないでしょうか。「2022 Miss Sake Japan」の活動と会社員の兼務も含め、そのようなオリジナリティ溢れる働き方や生き方に至ったきっかけや経緯なども伺いたいです。

磯部:2拠点生活を実現できているのは、まさに巡り合わせだと感じています。私の中で一貫しているのは、「心の赴くままに選択して生きる」こと。新卒1社目には、いずれは食の分野に携わることを見越して、ファーストキャリアとして学びになる業界という基準から金融企業を選びました。ところが、実際に働いてみると求めていたものと違うと感じ、「自分のやりたいことをやろう」と、大学生の時にインターンをしていた日本企業の海外展開を支援するコンサルティング会社に転職したんです。

しかし、転職したタイミングが丁度コロナが流行した時期と重なり、フランスに行きたいという想いも叶わず、日本にとどまることになってしまいました。飲食業に関するプロジェクトもコロナの影響でなかなか進めにくく、歯がゆい状況が1年半程続きました。そんなときにMiss Sakeの存在を知って、応募したことで、今に至ります。疑問や違和感を抱えながら生活を送ることがあまり得意ではありませんし、好きなように生きたいという自分の根底にある考え方が、Miss Sakeへの挑戦に繋がりました。Miss Sakeと仕事の両立を会社が認めて応援してくれていることには感謝しています。

若い世代のライフスタイルに寄り添う新しいタイプの日本酒の誕生に期待

飯田:そうしたタイミングや縁を味方につけ、周囲の理解を得ながらご自身のオリジナルな生き方を実現されているのは、まさに磯部さんの努力や実力ですよね。

ところで、私は7〜8年前に「女性の一人飲み」というテーマで修士論文を書いていて、女性の社会的・経済的自立と「一人飲み」の相関関係を探るべく、10数人の日本人女性に対してインタビューを行ったことがあるんです。これはこれでおもしろい結果と考察が得られたのですが、今は「ソバーキュリアス」という言葉も出てきているほど、若い世代の飲酒率は低いと聞きます。磯部さんと同世代である20代の方にとって、お酒はどのような存在なのか、興味があります。

磯部:私はZ世代に入るか入らないかという世代で、まだお酒は飲む方だと思います。しかし、さらに下の世代では「飲まないことがクール」という風潮を感じますね。健康意識の高い人も多く、お洒落なノンアルコールや低アルコール商品が増えてきている印象です。そうした商品が日本酒でも展開されると、私も含めアルコールがあまり強くない方にとっては非常に魅力的ですよね。

「明日は朝が早いし控えたい、でも友人との楽しい空間・時間を共有したい」といったとき、ノンアルコールカクテルでも良いので同じ雰囲気を味わえる選択肢があれば、手に取る人は多くなると思います。Z世代向けの商品開発に挑戦してくれる酒蔵さんが出てきたら良いなと思いますね。

飯田:ノンアルコールや低アルコールの商品がオプションとしてあるのは良いですよね。磯部さんご自身が同年代の方とお酒を飲まれるときは、どのようなシチュエーションで楽しまれているのでしょうか。

磯部さん:ホームパーティの際は、普段日本酒を飲まれない方にも飲みやすそうな日本酒を持って行ったりします。最近、「awa sake協会」のお披露目会にお邪魔させていただいたのですが、今かなりの勢いで泡酒(スパーリング)が増えているんです。このように、低アルコールをはじめ新しいタイプの日本酒が生まれると、若い世代でも飲む機会が増えてくるのではと思います。

日本の誇りである食文化を世界に広めていきたい

飯田:日本の食文化を海外に広める観点から「Miss Sake」に応募されたとのことですが、実際に「Miss Sake Japan」として日本酒を広められている中で、感じているやりがいや課題などを教えてください。

磯部:日本酒を普段から嗜まれている層ですと、私よりももっと詳しい方が多いんですよね。ですので、私の役割は日本酒を飲んだことがない層にリーチしていくことだと考えています。例えば、フランスでは、中国の白酒と日本酒を混同している方もいらっしゃるくらい、日本酒の浸透度はまだまだ低いんですよね。ただ、これまで口にする機会がなかった方が一度知ると好きになってくださるケースは多く、そうした機会をつくっていくことが私のアンバサダーとしてのやりがいにも繋がっています。

同時に、日本酒を広める上で感じている課題は、まだリーチできてない方々にどう出会っていくかです。10月にパリで開催されている「サロン・デュ・サケ」に参加させていただいたのですが、足を運ばれていたのは日本酒に関心の高い方ばかりでした。一方で、フランス郊外で行われる由緒ある馬術イベントに、馬耕による田んぼのお米で作られた日本酒のブランドのサポートとして伺ったことがあるんです。本来は日本酒とは縁のない場所ですから、参加された方に日本酒も着物も新鮮に映り、興味を惹くことができました。

このように、日本酒や日本に関係のないところからコラボレーションの好機を見つけてくことは、世界に日本酒を広める上で大事なんですよね。他にもクラシックコンサート会場で日本酒を振る舞うという試みもあり、音楽と日本酒のコラボレーションにも期待しています。

飯田:今までなじみのなかった方々に別のフックから日本酒を紹介することで、0から1に飛躍できる機会になりますよね。一見すると異質なものをうまく繋げることで、思いもよらなかった化学反応が生まれるのではないでしょうか。また、磯部さんご自身が日本酒の扉を開いていくようなやりがいもありますね。

日本酒の魅力をまだ知らない人たちに届けたい

飯田:最後に、今後「Miss Sake Japan」として、磯部さん個人として、これからやりたいことを伺わせてください。

磯部:「Miss Sake Japan」という素晴らしいタイトルをいただけたので、この1年間は多くの方との出会いを通じて、より多くの日本酒を発見していきたいです。私の目標は、日本酒の魅力をまだ知らない人たちに届けることです。まだ摸索中ですが、任期後も日本酒を広めるための活動に携われたらと思います。例えば、流通が難しいのであれば、予約販売やサブスクリプションの仕組みをつくるなど、他の国の事例も見ながらビジネスチャンスを洗い出したいですね。この機会に出会える方々と話をして、課題を見つけ、対処できる力をこれから身に付けていきたいです。

飯田:今後の磯部さんの活躍を楽しみにしています。本日は、貴重なお話をありがとうございました。