株式会社WONDERWOOD 代表取締役社長の坂口さんとWealthPark研究所所長の加藤が対談。後編では、日本とヨーロッパの家具に対する時間軸の違いや、投資対象としての一枚板の魅力、WONDERWOODのミッションである”BACK TO NATURE”に込められた想いについて、お聞きしました。
株式会社WONDERWOOD 代表取締役社長 坂口祐貴: 鳥取県生まれ。大学卒業後、P&Gジャパン株式会社に入社、営業職に従事。その後、偶然入った地元のカフェで一枚板のテーブルに出会い、心を奪われる。2016年に株式会社WONDERWOODを起業し、個人宅、ホテル、飲食店に一枚板テーブルやカウンターを導入。現在は”BACK TO NATURE”をミッションとして、自然を感じるプロダクトの製造・販売を行っている。
WealthPark研究所 所長 / 投資のエヴァンジェリスト 加藤航介(かとう こうすけ):「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための研究、啓発のための情報発信を行なう。2021年より現職。
家具が次の世代に受け継がれる文化を日本にも定着させたい
加藤: 一枚板の家具を知ることは、木と共に育んできた日本の長年の文化を知るきっかけにもなるという観点は、とても面白いですね。
坂口: そう捉えてもらえると、私もうれしいです。また、私は日本の家具に対する認識を変えたいとも思っています。最近は家具の大量生産・大量消費というスタイルが世界的な主流であるものの、ヨーロッパなどでは何百年前の家具を手入れしながら使う文化もしっかり残っています。家具を見る時間軸がとても長いのです。
一枚板のテーブルは、切り出す前の樹齢の期間は使えると言われており、何百年も使っていただける家具です。世界最古の木造建築である法隆寺は、当時、樹齢2000年の檜で建てられたと言われていますが、1400年の時を経ても健在です。同じように、一枚板のテーブルも、世代や世紀を超えていくことができるのです。購入した当人が他界した後も、家具は次の世代に受け継がれ使われ続けていくという文化を、日本にも定着させていきたいですね。
加藤: 一枚板の家具は、素材そのもののシンプルなデザインだけに、飽きがこないと思います。また、世代を超えて家族の生活を紡いでいくというのは、とても夢がありますね。
坂口: 本物に触れられること、そしてモノを大切にすることを教えるという視点から、一枚板の家具はお子様にも良い影響を与えると思います。傷や落書きを心配して、一枚板の家具はお子様が大きくなるまで待つとおっしゃるお客様もいますが、私は逆の考えです。経験や偏見のない幼い頃から本物に触れさせることが、モノを見極める目を養うための一番の近道なのです。
我が家でも樹齢200年の桜の一枚板テーブルを使っていますが、あるとき2歳だった長女がお絵描きをしていたペンで跡をつけてしまい、まるで大切なお友達を傷つけてしまったかのように泣き出したことがありました。普段からテーブルを「さくらちゃん」と呼んで、自分の100倍の人生を生きている先輩として愛着を持っていたので、とてもショックだったのでしょう。「大丈夫。パパが魔法を使うから(笑)」となだめて、工房できれいにメンテナンスし、元通りにすると、長女はとてもうれしそうにしていました。実際、一枚板は、表面が汚れたり傷ついたりしても、数ミリ程度を薄く削ってしまえば新品同様に戻るのです。このように本物を暮らしに取り入れ、大切に使い続けることは、子供の豊かな心を育くむことができます。一枚板はお子さんが小さい時期にこそ使っていただきたいですね。
自然が何千年もかけて形にしたものにどう価値をつけるか
加藤: ここからは、一枚板の資産としての側面について伺わせてください。あの有名な屋久杉の一枚板は、とても高額と聞きましたが。
坂口: 屋久杉とは、屋久島で1000年以上生息していた杉を指しますが、その希少性から、屋久杉でつくられた一枚板は総じて高値で取引がされています。ちなみに、樹齢1000年未満のものは屋久小杉、もっと若いものは屋久島杉として、区別されています。杉は日本全国に生息しており、種類も質も価格も様々で、一枚板として人気のある樹種なのですが、屋久杉はその中でも最高峰といえるでしょう。屋久島自体が世界遺産に認定されてからは屋久杉の伐採はできなくなりましたので、今では自然災害などで倒れて切らざるを得ないときにしか、新しい材料は市場に出てきません。ですので、今後ますます価値が上がっていく可能性がありますね。WONDERWOODのお客様からも「屋久杉の一枚板が欲しい」というリクエストをよくいただき、我々も頑張って探すものの、そう簡単には出てこないのが現状です。
加藤: 屋久杉の一枚板って、一体、どの程度の価格なのでしょうか。
坂口: 6人掛けのテーブルのサイズで何百万円、時には何千万円の売値がつけられているものもあります。ただし、個人的な意見としては、もっと高く評価されてもよいとすら思います。今から屋久島に屋久杉の種を植えて栽培に成功したとしても、屋久杉と認定されるには1000年以上の時間がかかるわけですから。そもそも屋久島は、ほぼ365日雨が降っており、また日照時間が短いので土壌に栄養が行き渡らないという、木の生育にとって過酷な環境です。人間の手で種を植えたとしても、1000年後に生きていられる可能性は極めて少ないのです。切り出したときに、あのような表情を持つ木は、世界のどこを見渡しても日本の屋久島にしか存在しません。現存する屋久杉は、まさに大自然にしかつくれない奇跡のアートなのです。
自然が何千年もかけて形にしたものを、自分の手で触れられるところに置ける体験の対価としては、何百万円、何千万円という金額では不十分に思えてきますよね。現代アートの世界では、何億円、何十億円という価格で作品が取引されているように、木の価値に対する評価はもっと上がってもよいと感じます。屋久杉だけではなく、樹齢何百年の木も唯一無二の自然のアート作品ですし、そのような大木の総数が増えていかないこと考えると、それらの希少価値は益々上がっていくと思います。
“BACK TO NATURE”の思想が、地球環境と現代人を救う
加藤: なるほど。今まで、考えたことのない世界観です。そのようなストーリーを知る人が増えれば、一枚板の価格はもっと上がっていくように思えますね。また、一枚板を通じて希少な森の資源に高値がつくことは、環境問題の視点からもとても意味があることです。森から切り出された木材が、ただのウッドチップに代わって数万円の家具になるのか、一枚板となりその何百倍の価値がつくのかで、原生林への人間社会がつける価値そのものが劇的に変わります。その増えた価値は、森林や環境の保護への莫大な原資になっていくわけです。資本主義社会の中で環境問題を取り組むにあたって、本来の自然の価値を、自然からの商品とともに高めていく取り組みは、とても理にかなっていると思います。さて、最後に“BACK TO NATURE”という御社のミッションについても伺わせてください。
坂口: 昨今は、サステナビリティやSDGsなどがよく提唱されていますが、本来、人間は意識せずとも自然との共生ができていたはずです。我々が掲げるミッションである“BACK TO NATURE”は、自然の中にこそ我々が豊かで幸せに暮らす多くの答えがあるのだから、我々が自然に戻ればよいのだというシンプルな考えを表現しています。
私が一枚板で起業したのも、“BACK TO NATURE”を象徴するような出来事があったからです。私は大学を卒業して大手外資系企業の営業職として働いていたのですが、神経をすり減らすような多忙な日々を送っていました。心身ともに疲れ果て、地元の鳥取に戻ったときに、私の人生を変えてくれたのが一枚板のテーブルでした。その一枚板には大きな穴が空いていて、そこに手を入れた瞬間にとてつもないパワーを感じたんです。自然界という過酷な環境で数百年生きてきた木の放つ圧倒的な存在感によって、私がこれまで抱えていた悩みや痛みは消え去りました。このとき、人に活力を与える一枚板を社会に届ける仕事をしようという人生のミッションも見つけることができたのです。
加藤: ”BACK TO NATURE”とは、我々が自然を意識し直すことによって、それぞれが進むべく道が見つかるという、シンプルながら深いメッセージが込められているんですね。実に面白いです。
一枚板への投資は、自然の命を追い、自然がつくった豊かさを手元に置くこと
坂口: 自然と人間の距離が乖離しすぎた結果、自然の力が感じられにくい都会のような場所では分断と孤立が進み、自殺や伝染病といった不自然な現象が起きています。一方で、私も含めてですが、仕事や生活のために都会で生きていかなければならない現実もあります。だからこそ、高層ビルが立ち並ぶ環境の中でも、活力を与えてくれる木の命をインストールできるようにしたいのです。一枚板のテーブルでもいいし、ワークデスクでもいいし、究極的にはまな板でもいい。自然とコネクトできるものを一つでも暮らしの中に取り入れるだけで、それは”BACK TO NATURE”になります。自然と人間の距離を近づけるプロダクトを生み出すことで、不自然な世の中に向かうことを防げるのではないかと考えています。
加藤: 自然とコネクトできる一枚板への投資は、日本人としてのルーツの再認識や、自然に戻れる感覚といった精神面のリターンも大きそうですね。WealthPark研究所では、投資というのは単に金銭的なリターンを追い求めることではない、という主張をしているのですが、今回の一枚板のお話を聞いて、さらに投資への見識が高まったように思います。
坂口: 一枚板への投資は、時間軸が金融商品の投資などとまったく違うと思います。自然の命を追い、自然がつくった豊かさを手元に置くことができる。それこそが本質的なウェルスだとも思います。
加藤: 私自身、投資の啓発の仕事をしていますが、社会と個人を豊かにする投資の本質とは「長期の時間軸で、良質なものを人生に当たり前のように取り入れること」に尽きると思っています。短期の売買で儲けようとするのではなく、次の世代まで含めて長期投資が学べる一枚板は、ある意味で、投資の本質を学ぶのに最適なアセットクラスだと言えるかもしれませんね。このような体験をより多くの人ができるよう、私としてもWONDERWOOD様を応援させて頂きます。本日はありがとうございました。