株式会社WONDERWOOD 代表取締役社長の坂口さんとWealthPark研究所所長の加藤が対談。前編では、WONDERWOODが提供する一枚板の魅力や、木と人の密な関係を支えてきた日本の職人技について、坂口さんの幼少期のエピソードにも触れながら、お聞きしました。
株式会社WONDERWOOD 代表取締役社長 坂口祐貴: 鳥取県生まれ。大学卒業後、P&Gジャパン株式会社に入社、営業職に従事。その後、偶然入った地元のカフェで一枚板のテーブルに出会い、心を奪われる。2016年に株式会社WONDERWOODを起業し、個人宅、ホテル、飲食店に一枚板テーブルやカウンターを導入。現在は”BACK TO NATURE”をミッションとして、自然を感じるプロダクトの製造・販売を行っている。
WealthPark研究所 所長 / 投資のエヴァンジェリスト 加藤航介(かとう こうすけ):「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための研究、啓発のための情報発信を行なう。2021年より現職。
精神的な投資としての価値を兼ね備えた一枚板の魅力
加藤: 本日は知られざる一枚板の魅力について坂口さんに教えていただきたく、お時間をいただきました。私が所属するWealthPark研究所は、人々と社会の豊かさと幸せをつくる「投資」について向き合っています。WONDERWOOD様が提供される一枚板には、単なるインテリアを超えて、経済的な投資、そして自然とつながる精神的な投資としての価値を兼ね備えているユニークさがあり、我々の活動との親和性を感じていました。まず、「一枚板とは何か」というところから伺えますでしょうか。
坂口: 一枚板というのは、まさに巨木から切り出された一枚の木の板のことです。我々は全国から仕入れた選りすぐりの一枚板をそのままテーブルやカウンターにして、個人宅や商業施設に販売しています。このギャラリーにある一枚板の木の樹齢は100年〜300年以上になりますが、日常生活でそのような樹齢の木を見かけることはなかなかないでしょう。一枚板は原生林や里山、もしくは古くからあるお寺などの木から切り出されてきます。もともとは集落のシンボルだったりお寺の御神木だったりしたものが、管理などの問題から伐採され、出物となるケースなどもあります。
加藤: なるほど。今、私が囲まれている魅力的な一枚板は、人工林からではなく、原生林の木からつくられているのですね。こうした木はどのようなプロセスで一枚板の家具になっていくのでしょうか。
坂口: まずは、木を倒すところからですね。そして、その丸太から専用のノコギリや機械で大きな板を切り出していきます。次に、樹種や厚みにもよりますが、切り出した板を5〜10年間は乾燥させ、一定以下の含水率になった段階で、細かな加工をして販売を開始します。我々の場合は、すでに生木丸太となって流通しているものを仕入れることもあれば、乾燥処理が終わっている一枚板を仕入れることもあり、仕入れ時の状態は様々です。
加藤: ちなみに、一枚板の仕入れ価格や売値はどのように決まっているのでしょうか。
坂口: 外からは見えにくいですよね。実は、木材業界のバックボーンがなかった私から見ても、木材業界における一枚板の価格設定はとても分かりにくいものでした。そこで、WONDERWOODでは、樹種と板のサイズから一枚の価格を合理的に算出できる計算式を独自につくることにしました。家具用の樹種はある程度は限られていますし、そうした樹種のサイズごとのおおよその単価を設定し、運用することにしたのです。今は社員の誰が算出しても、ほぼ同じ価格が弾かれますので、透明性のある形で仕入れ値や売値を決めていく形に落ち着いています。
また、木材業界では木の割れや穴の有無などで価格を上げたり下げたりするのが一般的ですが、我々はそれらを木の「個性」と捉えて、価格には反映しないことを基本にしています。お客様の好みは人それぞれあるにしても、木としての価値は人の嗜好とは離れたところにあるという考え方です。ただ、もう二度と出てこないような、材自体やその表情が希少な銘木に関しては、裁量をもって値付けをすることもあります。
ランドセルを持たせてもらえなかった小学校時代。あえて人とは違う道に進む原体験に
加藤: せっかく一枚板を買うのであれば、割れや穴が残っている板をあえて好まれるお客様がいらっしゃるのはよく分かりますね。それが嫌なら加工品を買えばいいわけですし。
坂口: そうですね。お客様の好みって本当に十人十色なんです。昔、起業してすぐの頃に、渋谷のギャラリーで展示会を開催する機会があり、そこでは樹種や仕上げの異なる30枚の一枚板を展示しました。チェンソーの切り跡が残ったもの、穴が開いたもの、それらを完璧にきれいにしたものと、考えうる多様な一枚板を並べてみたのです。そして大きくて表情のある一枚を目玉品として、ギャラリーの真ん中に配置し、残りは我々が思う人気順に展示していきました。
ところが、来場後のお客様に「どの一枚板が好きだったか」と聞いてみると、誰一人として好みが被らなかったんです。我々が目玉にした一枚を選んだのは、たった一人。この事実は私たちにとって大変に驚きで、「本来、人間の趣味嗜好はとても多様なのだ」と木に教えてもらった貴重な経験でした。
我々は、子供の頃からみんなで一緒のランドセルを背負って、高校や大学を出て、会社勤めを始めたらスーツを着るような、画一化されたレールを歩くことが多いですよね。社会に出ても、一人一人の個性は隠されがちです。一方、「好きな木を選んでもらう」という実験をすると、画一的とは正反対な結果が出たわけです。一枚板には一つとして同じ商品はありませんが、同様に一人として同じ人はいない、皆が強い個性を持っているのだということを再認識することができました。
加藤: 興味深いエピソードですね。お話を伺いながら、例えばアートやワインといった、より情報が蓄積されたジャンルでは一般の評価に捕らわれてしまい、一枚板ほどには素直に好みを答えられないのではないかとも思いました。一枚板に向き合うことは、自分自身に向き合える面白い機会かもしれませんね。
生き方や働き方において自分の個性を表現できる社会を目指すWealthParkでは、「オルタナティブ」という言葉を大切にしています。新しいとか、代替的と訳されますが、オルタナティブという言葉には「個性がある」、「違いがある」という意味合いも含まれていると考えているんです。年を重ねたとしても、好きな一枚板を選び取れるように、心のままに自分の好きなモノを感じられるスキルというのは、成熟した社会の条件になっていくのでしょうね。
坂口: そうですね。ちなみに、私は小学校時代にランドセルを持たせてもらえなかったんです(笑)。我が家は父が公務員で母が専業主婦というごく一般的な家庭ですが、なぜか母は皆と一緒のランドセルというのが気に入らず、代わりに用意されたのはワインレッドカラーの肩掛けバッグ。入学当時は、それが理由で、周りに相当にからかわれました。
ところが、高学年になると、今度はみんながランドセルを嫌がって、むしろ自分が真似をされるようになったんです。これは私にとってはとても貴重な経験で、「みんなと違う個性を自分が先に出せば、時代は後からついてくる」という感覚を母に教えてもらったと思っています。私は、学生時代の留学先にアフリカのガーナを選んだり、木材業界で起業をしたりと人と違う道に進んできたのですが、それはこのランドセルの体験がルーツになっているのでしょう。母に感謝を伝えたところ、当の本人はすっかり忘れていましたけどね(笑)。
日本における木と人の密な関係を支えてきたのは、素材を正しい道具で扱える職人技
加藤: 周囲の価値観や常識に縛られずに積み上げてきたオルタナティブな成功体験が、今の坂口さんをつくられてきたのですね。ところで、日本と同じような一枚板家具の市場や文化は海外にもあるのでしょうか。
坂口: 市場や文化自体は世界各国にありますよ。例えば、イタリアの「RIVA1920」という無垢材家具のブランドは、ニュージーランドの何千年物のカウリ材を使ったテーブルなどをつくっています。ヨーロッパだけではなくアジアでも一枚板は人気があり、韓国ドラマでも一枚板を使ったテーブルが登場するシーンをよく見かけます。
ただ、日本の木は海外の木と比べると良い意味で特徴的ですね。日本は四季がはっきりしている気候なので、年輪の線が入りやすく、表情が豊かなんです。また、日本は日照時間が長くなく、木が成長するには時間がかかることから、中身がしっかり詰まった木が多いんです。樹種や色のバリエーションに富んでいるのも日本ならでは。例えば、一口に桜と言ってもたくさんの種類がありますし、色合いも白や赤やアッシュ系まで様々です。家具として一枚板を選ぶときも、自分が好きな一枚を見つける楽しさを感じてもらえると思います。
加藤: 私自身、家のダイニングテーブルにWONDERWOODさんから紹介された一枚板を使っていますが、これにより木に対する見方が大きく変わりましたね。これまで意識したこともなかったのですが、公園を歩くときや山登りをするときに、木の太さ、種類、中の表情などが気になるようになりました。
坂口: それはうれしいですね。さらに言うと、日本は個性豊かな「材」に恵まれていますが、この「材」を正しく使える職人文化も秀でています。魚がおいしくても、寿司職人の技術が高くなければおいしいお寿司にならないのと同じ論理で、素晴らしい素材を正しい道具で扱える職人技によって、日本の木と人の関係は支えられてきたのです。世界広しと言えども、日本ほどに木が生活の隅々まで入り込んでいる文化は、存在しないのではないでしょうか。日本人の名字の多くには木の漢字が使われている事実も、日本では木と人の関係が密接だったことを物語っているでしょう。
一方で、建築分野においては、木に代わる新しい素材がいくつも誕生し、日本の木の文化を育くんできた職人技が喪失していくことには危惧を覚えています。WONDERWOODは、創業当初から職人の方に一つでも多くの仕事をしていただくことを命題に掲げており、微力ながらこの素晴らしい文化の保全に関わっていきたいと思っています。
(後編へ続く)