世界を見てきた不動産のプロと考える、不動産投資の役割と本質(後編)

株式会社プロフィッツにて取締役・投資責任者を務める玉真さんとWealthPark研究所所長の加藤が対談。後編では、海外の視点から見た日本の不動産市場のメリットと、それを踏まえて日本・アジアの個人投資家が取り組むべき不動産投資の方向性について掘り下げます。

株式会社プロフィッツ 取締役投資責任者 玉真永棋(たまま えいき): 旧大和証券SMBCプリンシパル・インベストメンツで不良債権投資を担当した後、ラサール不動産投資顧問で不動産投資、新生銀行で不動産ノンリコースローン融資に携わる。直近はADIA(アブダビ投資庁)不動産投資部門にてアジアパシフィック地域の不動産運用を担う。2002年慶応義塾大学経済学部卒業、2011年米コロンビア大学大学院不動産開発専攻科修了、2021年米ハーバードビジネススクールGeneral Management Program修了。英国王立不動産鑑定士協会フェロー(MRICS)、CFA協会認定証券アナリスト(CFA)。

WealthPark研究所 所長 加藤航介(かとう こうすけ)‐ プレジデント/インベストメント・エバンジェリスト:「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための研究、啓発のための情報発信を行なう。2021年より現職。

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海外の視点から見た日本の不動産市場のメリットは

加藤:次に、不動産投資の国際比較についても伺わせてください。すべての不動産は唯一無二であり、また不動産は国ごとに法律も異なりますし、非常にドメスティックな世界だと思います。ADIAという世界有数の政府系ファンド(ソブリン・ウェルス・ファンド)で不動産投資案件を扱われていた玉真さんにとって、日本の不動産投資はどのように映っていたのでしょうか。

玉真:グローバルに見た日本の不動産市場の強みは、キャッシュフローの安定性と金利の低さです。キャッシュフローの安定性と金利の低さは両立していることが重要で、これによりレバレッジをかけて高いリターンを取りに行くことも可能です。仮に金利が低かったとしても、市場の不動産供給に規律がなく、キャッシュフローが不安定では、デフォルトするリスクが出てしまいます。特にオフィス不動産についていえば、日本はそもそも国土が狭く、古い建物を壊して新しいものを建てるのが一般的ですので、土地が広大な他国と比べると、物件の「純供給」が限定的です。つまり、需給の緩みに対するリスクが他国よりも低いといえます。コロナ前の数字ではありますが、日本のオフィスの空室率は0パーセント台で、こんなマーケットはなかなかありません。世界の同空室率は10%程度、発展途上国になるともっと高くなります。日本は需要の伸びも強くはないのですが、供給量も多くないので、結果的にキャッシュフローが安定します。そして借入金利が低いので、レバレッジ効果の高い投資が可能になってきます。日本のオフィス不動産は、他国と比べても十分に魅力的なマーケットなのです。

加藤結構、意外ですね。日本のメディアの報道では、オフィスの受給の緩みによるマーケットの崩壊がよく目に入ってきますが、海外から見れば、むしろ日本は需給バランスが整っており、安定したマーケットができているということでしょうか。

玉真:もちろん、コロナ禍でマーケットの状況は刻々と変わってはいます。それでも日本のオフィスの空室率は5〜6%で、他国は10〜15%です。当たり前ですが、需給バランスは非常に重要でして、この安定性は世界から見ると大きな強みに映ります。例えば、私の担当だったインドは、右肩上がりの実質GDP成長率が表すように、マクロで見れば高い経済成長を誇っていました。ただし、過去何年かにわたって不動産価格が高騰すると、海外デベロッパーが参入して一気に供給が増え需給が緩み、一定期間は不動産価格がゼロ成長になるということも起こるのです。

加藤:確かに、株式投資の世界で結局一番重視されていたのも、他社が参入できない仕組みである競争優位の確保です。つまり、キャッシュフローの安定性です。その意味では、不動産投資も株式投資も、需給バランスを見ることが肝要ということですね。それにしても、世界的に見ると日本のオフィス不動産は需給バランスが緩みにくいユニークなマーケットだという見解は、勉強になりました。

日本やアジアの個人投資家が取り組むべき、不動産投資の方向性とは

加藤:最後に、日本やアジアの個人投資家が取り組むべき不動産投資の方向性について、伺わせてください。玉真さんのいらした政府系ファンド(ソブリン・ウェルス・ファンド)は特殊な存在に見られがちですが、長期で絶対収益の達成を目指す特徴は、個人投資家が目指すべき資産運用と親和性が高いと考えています。そうした観点からも、個人投資家のポートフォリオについて、良いアドバイスをいただけるのではないかと。

玉真:はい。個人の方が国内の不動産に投資する場合、おそらく最初の選択肢はご自身の住宅購入ですよね。持ち家を投資だと意識されない方も多いのですが、これも立派な不動産投資です。住宅ローンは借入金利も低く設定されているので、チャレンジする価値は大いにあります。そして、ご自身の住宅投資に面白さを感じ、リスクを取ってより高いリターンを目指すことに興味があれば、銀行から少し高めの金利で不動産投資ローンを借りて、アパートやマンションの経営にステップアップすることを検討したら良いと思います。端的にいえば、リスクの高い物件を扱うほど、手間がかかります。手間をかけたくない方や、個人で住宅以外のオフィスや物流、ホテルに投資してみたい場合は、REITや投資信託、クラウドファンディングといった選択肢もあります。今はさまざまな手法が用意されているので、ノンプロとして、無理なくステップアップしていくことができると思います。

加藤:不動産は人の活動の中心にあり、絶対になくなることのない資産です。預貯金の一部をREITやクラウドファンディングに回すだけでも、ポートフォリオの分散につながりますので、できることから始めていくと良いですよね。ちなみに、玉真さんご自身のポートフォリオでは、不動産は全体の何割を占めていますか。

玉真:私の場合、不動産を生業にしていて馴染みがあることもありますが、不動産関連投資が全体の8割です。いわゆる教科書通りのMPT(モダン・ポートフォリオ・セオリー:現代証券投資理論)に従わず、自分の人生のゴールを見据えながら投資案件を選ぶ、ユニークな方法をとっていると思います。

具体的には、私にとって大事なゴールが3つありまして、①将来のことも含めた生活基盤の確保、②子供の教育資金の確保、③将来のチャレンジを叶える資金の確保(達成)に適合するように、投資先を決めています。①の生活基盤にはインカムゲインを重視した不動産を選んでいます。同様に、②の教育資金については、実際にお金が必要になる大体のタイミングと額を意識して、不動産を選択して保有しています。最後の③は、自分の仮説に基づく将来の経済を支える企業(投資先)を選んでいて、リスクを正確には判断できないかもしれませんが、データセンターやライフサイエンスといった不動産の未来を期待できるもの、またテクノロジー関連の企業を中心にしています。いわゆるハイリスク・ハイリターンの投資ですね。このように自身のゴールに沿って組んだ結果、8割が不動産、2割が外国株という構成になっています。

加藤:玉真さんのように、ご自分がよく理解されている資産でポートフォリオをつくられるのは納得ですね。私は外国株式をかなりの比率で持っていますが、これは仕事を通じて世界の経営者の方々と何百人もお会いしたことで、外国株に対する恐怖心が払拭されているからだと思います。

玉真:投資先の候補を、日本の資産に限ってしまうのは本当にもったいないですよね。ADIA時代の話ですが、不動産に投資するのであれば、どのマーケット、どのアセットが魅力的かを、毎週協議していました。日本にいれば日本の不動産しか見ませんが、他の地域も含めて不動産を眺めてみると、考えてもいなかった魅力的な投資機会が沢山出てきます。また、それによって日本の不動産の魅力も再発見できましたね。例えば、日本の物流とデータセンターは、ファンダメンタルから見て世界的にも注目を集めている不動産分野です。

加藤:視野を広げた上で、投資する、投資しないを決めていくことは重要ですよね。金融投資だけでなく、不動産投資の国際化は、個人投資家の方も積極的に進めていくと良いのではないでしょうか。私の世代では、日本株のことをまず少し理解してから外国株に入るような流れがありましたが、最近はiDeCoやNISAからスタートする場合でも、最初から外国資産を買われる若い方が増えてきたことは嬉しく思います。分散投資の概念などをよく勉強されています。不動産の世界でも、海外の不動産投資からスタートする方も出てくるのでしょうね。本日はグローバルな視点での貴重なご意見を数多くいただき、ありがとうございました。