日経STOCKリーグで敢闘賞を受賞した高校生チームにインタビュー。「シェア」と「ケア」を軸に、無縁社会を投資で解決する(前編)

中・高・大学生を対象にした金融・経済学習コンテスト、日経STOCKリーグ。この度、渋谷教育学園渋谷中学高等学校(渋渋)の高校2年生のチーム「tam tam」が、991校が挑戦した高校部門の実質2位となる敢闘賞を受賞しました。

渋渋は、WealthPark研究所が投資教育を受け持ち、オリジナルのワークショップを定期開催しているパートナー校。「tam tam」の3人は、日経STOCKリーグに応募した初期の段階で、WealthPark研究所にも相談に訪れてくれました。それから半年かけて、「つながり」という抽象度の高いテーマを選び、独創性に溢れたポートフォリオを構築。彼らの精緻なレポートから見えてくるのは、投資と社会の密接な関わりでした。今回の一連のプロセスや、その裏側にある彼らの想いを、WealthPark研究所 所長の加藤がインタビューしました。

「tam tam」の3人。写真左から、柳澤さん、谷田さん、森木さん

人と人がつながる新しい形を、投資を通じて実現したい

加藤:第24回日経STOCKリーグでの敢闘賞の受賞、おめでとう!渋渋の皆さんには、我々の5時間の投資教育のワークショップ「もしも投資のない国に生まれたら」を受けてもらいましたが、それは人生初のお金の授業だったかもしれません。応募した日経STOCKリーグのテーマについて相談に乗ってほしいと、指導教員の真仁田先生と一緒にWealthPark研究所に来てくれたのはもう1年前だね。

当初から、「無縁社会」という日本の課題を投資で解決する方法を模索していたけれど、皆さんのレポートを読んで、抽象度の高いテーマに対して自分たちの力で真っ向から向かっていく姿勢に感動しました。まずは、今回のチームのテーマや、ポートフォリオづくりのための銘柄選択の方法について、簡単に教えてもらえますか。

森木:「Reunion with Companion – シェアとケアでつながり直す」というレポートのタイトルに込めたように、「つながり」という一見漠然としたテーマを、「シェア」と「ケア」という企業に対する評価軸に落とし込んだことが、私たちのポートフォリオの特徴です。

このテーマを選んだのは、社会の無縁化が進み、高齢者の孤独死や若者の孤立感の高まりといった問題を抱える日本において、新しい形で人と人がつながり直すことが求められていると考えたからです。地縁や血縁、社縁といった、従来の拘束力の強い結びつきではなく、個人が自発的に選択できる弾力性のあるつながりを、投資や企業活動を通じて実現できるのではないか。これが僕たちの出発点であり、全体の目標にもなっています。

新しいつながりの具体的なあり方としてまず思い当たったのが、シェアリングエコノミーです。空間やスキル、モノなどをシェアしたときに付随的に生まれるつながりに注目して、そのような機会を提供している企業が、これからの社会をよくする手がかりになるのではないか、と考えました。また、個人化が進む社会の中で人々が共同性を取り戻していくには、「シェア」に加え、他者への関与をより積極的に担う「ケア」の概念も取り入れる必要があるという気づきがあり、この2つの軸で企業を見ていくことになりました。

独自のスクリーニングとストックピックでつくり上げたポートフォリオ

加藤:今の時代に則した新しい「つながり」を深く考えていき、「シェア」と「ケア」という切り口に辿り着いたんだね。

柳澤:そこに至るまでには、だいぶ苦戦しました(笑)。その後、日本の上場企業を「シェア」と「ケア」で選別するために2つの流れをつくり、最終的に20社を選出しました。

1つ目の流れは、幅広い企業群から4種類のスクリーニングを行い、絞り込みをしていくものです。2,600社を対象とした第1次スクリーニングでは、各企業のホームページや事業内容を判断材料とし、テーマと関連性のある企業をピックアップしました。続く第2次スクリーニングでは、絞られた企業の財務状況を僕たちが重視する指標によって評価していきました。

そして、時間と力を注いだのは、第3次スクリーニングと第4次スクリーニングです。第3次スクリーニングでは、僕たちが目指す「無縁社会の解消」というゴールに対する社会的インパクトを測定しました。ここでは、米国の非営利団体による国際認証制度B Corp(B Corporation)と、インパクト投資を推進するネットワーク組織であるGSG(The Global Steering Group for Impact Investment)の指標を活用しています。

第4次スクリーニングでは、シェアとケア、さらにオンラインとオフラインという軸で4種類に分類し、それぞれに則した異なる指標でスクリーニングしました。この1つ目の流れで、最終的な20社のうちの8割を選びました。

谷田:2つ目の流れは、母集団からの絞り込みとは別に、自分たちが出会った企業を、自分たちの裁量で選ぶというプロセスです。レポートでは第5次スクリーニングとしています。これで残りの2割を選びました。

加藤:なるほど。2割は完全なストックピックを行ったんだ。あ、これは業界用語なんですが、絞り込みをしないで「好きなものを選ぶ」という行為を「ストックピック」というんです。

谷田:はい。実は、この2つ目の流れは、加藤さんからのアドバイスを参考にしています。財務状況を評価する第2次スクリーニングを経ると、大半が既にビジネスが確立されている大手企業になってしまって。それは、私たちが目指すところではないと思いました。そこで、加藤さんがお話ししてくださったように、絞り込みに捉われずに、「自分たちがただただ投資したい企業」もポートフォリオに組み入れることにしました。業務内容や社会へのインパクトのポテンシャル、そして私たちの想いが、より反映されるようにしたのです。

この絞り込みによらないプロセスが、参加チームの中ではとても珍しいアプローチであったことは、実際に大会に出場して理解しました。

加藤:ストックピックについては、「結婚相手探しと銘柄探しは似ている」という例え話もしたよね。幸せな結婚生活のためには、多くの人とデートする必要はないし、世界の全人口から徹底的に絞り込む必要はない。学歴や年収、年齢といった定量化しやすい世間一般の条件で相手を絞り込むと、大体において失敗する。それよりも、自分だけの定性的な軸に向き合って、自分が出会った人の中から見つけた方が、よっぽどうまくいくって。

全員:その話、三人で何度もしていました(笑)。

「つながり」を付随的に生む「シェア」、直接的に担う「ケア」

加藤:でも、何より「シェアとケア」というテーマがいいよね。表彰理由でもテーマの独自性が評価されていたけれど、私も同感です。

谷田:ありがとうございます。大会では地元を意識したテーマを設定したチームが多く見られましたが、それは私たちも同様だったと思います。私たちの学校は東京の渋谷にありますが、渋谷という街は過去から現在までいろいろな形で街の活性化が図られていて、今さら「投資の力で街おこし」という場所ではありません。ただ、渋谷にも社会課題はあります。投資を通してこの街をさらによくすることを考えながら浮かんだのが、「無縁社会」というキーワードでした。

加藤:なるほど。自分たちが学び、生活している日常の環境に向き合うことから出てきたテーマというわけですね。では、少しこのテーマについても深掘りさせてください。半年間で何千社という企業を調べ、何百の企業や関係者にインタビューしていく中で、「シェアとケア」に対する学びは、どのように深まりましたか。

柳澤:学びという点では、企業への取材を通して、既存のものを「シェア」することで価値をつくっていくシェアリングエコノミーは、SDGsが重視されている時代の成長分野だと確信できました。

また、シェアリングエコノミーは、そのサービスの利用を通して付随的に人と人がつながれるメリットがあるという気づきがありました。「つながろうとしなくてもつながれる」「気づいたらつながっていた」という形は、僕らが探していた束縛や拘束のない新しい「つながり」のあり方に近いと感じました。

谷田:さらに、無縁社会から脱却するには「シェア」だけでは不十分ではないかという、当初からの仮説も検証することができました。つながりの欠如が日常化し、つながりを意識したり、積極的に求めたりする人が少なくなっている今、「シェア」による付随的なつながりには、大きな意義があります。ただ、人と人がつながりたいというニーズに真っ向から向き合っている「ケア」にしか達成できない、密度の高いつながりも大切だというのが我々の仮説だったんですね。サービスの利用を目的にしている「シェア」と、人とつながること自体を目的にしている「ケア」を、「つながり」の源泉として同列に置くことの必要性を、様々なインタビューから改めて感じました。

森木:加えて、シェアリングエコノミーとして「シェア」の市場を創出している企業は利益をしっかり出しているのに対して、「ケア」の企業はまだまだ利益を出せていないという点も、取材を通して理解しました。多くの関係者の方々の発言から、「ケア」がビジネスとして成り立ちにくいことに気づいたんです。

加藤:「シェア」と「ケア」というキーワードを軸に、株式会社を投資という目線で見ていく中で、社会課題と株式会社の関係への理解も進んだということだね。実際、民間企業、公的企業、NPOなどのボランティア団体では、それぞれ得意・不得意があって、どれか単体だけでは多くの社会課題は解決されていかない。「つながり」を直接的に担う「ケア」の企業は労働集約的なビジネスが多く、なかなか利益を出しづらいので、結果的に株式市場では評価されにくいこともあるのでしょう。

今回は株式市場に上場している企業からポートフォリオをつくるというお題だったわけだけど、世の中の法人が株式会社だけでは、社会課題の解決に限界があるということも学べたのかもしれないね。

(後編へ続く)