世界と歴史を旅する投資、アンティークコインの世界を知ろう(前編)

世界と歴史を旅する投資、アンティークコインの世界を知ろう(前編)

古くから世界の王族貴族の収集や投資の対象として、熱い視線が注がれてきたアンティークコインは、現代の日本やアジアにも多くの愛好家が存在します。1枚のコインから歴史や地理を読み解く楽しさ、趣向を凝らした美しいデザインや高い彫金技術など、情緒的・文化的な価値を備えているユニークな資産。そんな魅力の尽きないアンティークコインの世界について、「人智を超えた”感動”を未来へ」をミッションに掲げるアンティークコイン専門店「アンティークコインギャラリア」の代表取締役CEO 渡辺孝祐氏、取締役・最高顧客責任者CCO 中田怜子氏にお話を伺いました。

アンティークコインギャラリア 店主・代表取締役 CEO 渡辺 孝祐(わたなべ こうすけ):福岡生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、外資系コンサルティング会社に入社。2012年より副業としてコインビジネスを開始し、2015年に法人化。今や趣味に。コインの魅力である「情緒的・文化的な価値」と「資産的な価値」を多くの人に伝えるべく、YouTubeチャンネル「アンティークコインマニア」などを通じて情報を発信。

アンティークコインギャラリア 取締役・最高顧客責任者 CCO 中田 怜子(なかた れいこ):神戸生まれ、東京育ち。老舗の古銭商、大手地金リサイクル商と経て、2021年よりアンティークコインギャラリアへ。2024年2月取締役就任。多くの方に、美しいマスターピースをお届けするために日々活動を続ける。趣味は料理と旅行、御朱印あつめ。日本近代銀貨研究会準会員。日本ドストエフスキー協会会員。神保町好事家倶楽部会員。翻訳書「ECOINOMICS〜アンティークコイン市場ガイドブック〜」。

WealthPark研究所 所長 / 投資のエヴァンジェリスト 加藤 航介(かとう こうすけ):「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための研究、啓発のための情報発信を行なう。2021年より現職。

加藤航介のプロフィールはこちら

そもそもアンティークコインとは?

加藤:本日は、知られざるアンティークコインの世界について、渡辺さん、中田さんにお話を伺います。まず、「アンティークコインって何?」というところから教えてください。

渡辺:色々な定義があるのですが、一般には100年以上前に国家が発行した金貨や銀貨が「アンティークコイン」と呼ばれています。金銀などの希少な貴金属でつくられており、特に状態がよく、希少で価値の高いコインの中でも、さらにデザインが人気のものは数十万円から数十億円で取引されています。

対して、主に第二次世界大戦以降に発行されたコインは、「モダンコイン」と呼ばれますね。また、大判・小判といった日本の昔のお金は「古銭」という分類になり、これらはアンティークコインとは区別されているのが一般的でしょう。

加藤:現代でも、万博やオリンピックがあると、いわゆる記念コインが作られますよね。アンティークコインとは、100年以上前に作られていた何らかの記念コインなのでしょうか。

中田:実際の流通貨幣として発行されたものもありますし、おっしゃるように記念コインとして発行されたものもあります。ただし、どちらであっても、国や王室の一大事業によるものです。コインの発行には、国家としての権威の象徴やブランディングの一環としての側面があるのです。

19世紀で最も美しいコインと言われている、1839年にイギリスで発行されたヴィクトリア女王の戴冠記念に作られた5ポンド金貨。発行枚数はわずか400枚とされており、世界中から人気を集める。

コインの発行は国家の一大事業

渡辺:一昔前までは、コインの発行は外国に対して自国の技術力を誇示するための国のブランディングの手段でした。工業力や製造技術の結晶であるコインのお披露目は非常に重要視されており、世界中が注目していました。

その中心にあったのが、サイズが大きく見栄えのする記念コインです。VIPへの贈答用として、またはコレクター向けアイテムとして、数量限定の特殊な「プルーフコイン」が作られていきました。「プルーフ」というのは鏡面の意味で、通常のものとデザインは一緒ですが、輝きがある鏡のような表面に仕上がっているコインです。現代のアンティークコイン市場は、このプルーフ仕上げのコインを頂点として、市場が形成されています。

中田:当時からコレクター向けプルーフでもさらに一段階上の「VIPプルーフ」が存在し、わずか十枚程度だけ作られたりもしています。王位がある方だけがもらえたようなコインだけに、それらが巡りに巡った現在でも高値で取引されています。なぜか日本のコレクターが持っていたりするのですが。

加藤:コインの発行が国家の一大事業というのは、確かにそうですよね。お金の発行を牛耳れることは社会での一番の権力と考えられますし、偽のお金が出回らないように技術の粋を集める必要があった。そして、新しい金貨を作れることは、それだけの金を保有しているという経済力を示すことになり、世界に向けた自国の強力なアピールになります。

当たり前ですが、貧しい国では金貨などは到底作れませんね。王族などが金を溜め込むことはできるでしょうが、それを流通させられる、記念コインで他国に配れることが、裕福な証となるわけですね。

中田:さらに、コレクター向けのコインは国庫に収益をもたらす優良なビジネスでもあったんです。コレクターは、地金の数倍の価格で喜んでコインを買ってくれますので。

ごく一部の国でしか作れないからこその、絶対的な希少性

中田:いずれにせよ、立派な記念コインを出すというのは、過去においてごく一部の国しかできないことでした。その意味では、地金もないイギリスが立派なサイズの記念コインを出し続けていることは、単純にすごいことなのです。

フランスも古くからコインの発行は行っていますが、絶対王政の時代から皇帝ナポレオンの時代、その後の共和制の時代にかけて 、混乱の時代であってもずっと金貨を作り続けています。日本では、明治時代に日清戦争の賠償金が地金だったときに同種の金貨を発行しましたが、ごく一部に限られます。当時の日本は、金貨を外国貿易の決済などに使う必要があり、記念コインを作る余裕がなかったということです。

アンティークコインに価値がある理由は、絶対的な希少性です。過去、大きくて美しい金貨を作れる国は各時代で極めて限られており、今後もその数量が増えることはないのです。

加藤:アンティークコインの世界が少しわかってきました。ちょうど資産性の話が出ましたので、どのようなコインに高い価値がついているのか、教えてもらえますか。

渡辺:アンティークコインの値段の決まり方ですね。

まずは、人を惹きつける普遍的な美しいデザインや、発行にまつわるストーリーですね。これが、世界のコレクターからの人気度となり、価値の基準になります。そして、現存枚数が少ないことはもちろん価値に結びつきます。また、重要なのが第三者鑑定機関による鑑定によるグレード評価で、つまりはそのコインの状態のよさです。こうした観点については、一般の方から見ても、特に意外性はないのではないでしょうか。

1847年にイギリスで発行された若きヴィクトリア女王が美しい銀貨。約8000枚が発行されたことが記録に残っているが、傷が少ないハイグレード品はヴィクトリア朝時代の貨幣収集家たちの憧れの的。

アンティークコイン市場の高い透明性

加藤:なるほど。鑑定とグレードについて、アンティークコインには世界で2つの鑑定機関があり、鑑定されたコインはWEB上で万人に公開され、グレードや過去の取引履歴が確認できると伺いました。かなりの透明性ですし、何より誰もがWEB上で無料で情報にアクセスできるのは、他の現物資産にはあまり見られない特徴だと思いました。アートや車、ヴァイオリンをはじめ、現物資産の王道の不動産でも、いつの時点で誰がいくらで売買したかといった取引履歴を見ることはできませんから。

中田:独立した数少ない第三者鑑定機関があり、世界市場での価格が標準化されているのは、アンティークコインの特徴の一つですね。鑑定されたコインは、一意の番号が割り振られ、通称スラブという簡単には開けられないプラスチックケースに収められます。そして、手元のコインのグレードの現在ポジションや過去の価格、予想される現存枚数などの情報を、WEBで無料で確認することができるのです。

渡辺:ちなみに、アンティークコインの世界には、カタログが古くから存在しています。ユダヤ系のロスチャイルド家をご存知ですよね。その始祖であるマイヤー・アムシェル氏は、もともとはコイン商であり、さらにカタログ通販のパイオニアと言われているんです。一部の貴族や軍人しか収集していなかったコインに目をつけ、街で珍しいものを無料同然で仕入れると、来歴、状態、価格を記載したカタログを作成し、高値で販売していました。

そのようにコイン商を続けていく中で、マイヤー氏は王侯貴族とのコネクションを構築していきました。そして、国家の資金調達を任せられるまで影響力を増していき、ついには世界一の大財閥を築きました。ロスチャイルド家の秘蔵のアンティークコインのコレクションもあり、いまだにオークションで出会うことがあります。

金銀のコインの歴史は何千年もあり、ローマ帝国の初代皇帝となったアウグストゥスも、世界で有名なコインコレクターとして知られています。投資財としてのアンティークコインは、相当に長い歴史があるのです。

投資対象としてのアンティークコインの魅力や特徴

加藤:続いて、投資対象としてのアンティークコインの魅力や特徴についても伺えれば。これまでのお話で、希少性、安定した価値、情報の透明性などをご紹介いただきましたが、アンティークコイン投資の世界をもう少し教えてください。

中田:それでいいますと、純粋な投資というよりも、ご自身の趣味、そして資産の防衛や分散を目的にされている方が多いと思います。弊社としても投資や投機の商材としておすすめしている意識はなく、歴史と価値のあるものを提案していくというスタンスです。気に入って100万円で購入したコインが10年経って200万円になったというのは、あくまでも結果論。また、お子さんやお孫さんに譲られることを楽しみに保有されている方もいらっしゃいますが、長期投資が前提です。

渡辺:投資金額の自由度も魅力かと思います。アンティークコインは、数万円から数億円まで値段の幅が広いので、複数枚を組み合わせて保有したり、ハイエンドなコインを1枚だけ選んだり、予算や嗜好に合わせてポートフォリオを作ることができます。また、世界中で価値のある国際資産であるということも特徴です。

一方、アンティークコインを投資リターンや利率の話にしてしまうと、途端におもしろくなくなっちゃうんですよね(笑)。それだけの視点ならば、よりわかりやすい不動産や株を買った方がいいのだと思います。アンティークコインは「歴史や旅」が好きな方がいつの間にかコレクターになっていたというケースが多いですし、そこの楽しみが大きいのです。私たちも収集家ですが、そうした愛情のある方たちを増やして、お付き合いしていきたいです。

世界中を、そして、歴史を旅できるアンティークコイン

加藤:アンティークコインの世界がさらに見えてきました。そこには、見て楽しむ、持って楽しむ、人に見せたり話したりして楽しむといった、複数の楽しみ方がありそうですね。また、コインから当時の史実がわかるという歴史的な楽しみは魅力的に思います。

渡辺:その通りで、一つ一つのコインの史実やストーリーを知ることは、もう本当に面白いんです。いくつかご紹介しましょう。

例えば、ここに世界史に大きな足跡を残したアレキサンダー大王(アレキサンダー3世)の金貨があります。マケドニアの王として生まれペルシアを征服し、アジアにまで到達したアレキサンダー大王は、征伐した国の良質なコインを集めて溶かして、自分の顔を刻印した新たなコインを作り、兵士の給料として配りました。30代の若さで亡くなった彼のカリスマ性や天才ぶり、国家や軍隊の運営力など、激動の時代を体感できるコインです。これを手元にお話ししているだけで、2000年前のマケドニアを旅している気持ちになってきます。

中田:また、こちらはイギリスのダイアナ妃が亡くなったあとに発行された追悼記念コインです。離婚されて王室をすでに離れており、スキャンダルな報道も多かったダイアナ妃ですが、最後にエリザベス女王がこの大きさの立派なコインを作ったことに、イギリス王室の懐の深さ、一度は家族になった人への愛を感じます。

渡辺:また、アフリカで発行されたコインなども面白いです。象のデザインが印象的な「ドイツ領東アフリカ 15ルピエン金貨タボラミント」というコインがありまして、タボラは当時のドイツ領の東アフリカ(現在のタンザニア)の内陸にあった都市の名前です。第一次世界大戦末期に元々は沿岸部にあった首都、ダルエスサラームがイギリスの船に攻撃されて陥落し、内陸に逃げて臨時政府を樹立したんです。

当時の通信網では、港を抑えられたらもう終わり。ドイツ本国への連絡が途絶えてしまい、現地の人間だけで臨時政府をつくる必要がありました。そうなると、例えば現地の傭兵への支払いなど、様々な経済活動を行うために、貨幣をつくらないといけない。

そこで、臨時政府は「タボラフィフティーン」と呼ばれる15人の造幣部隊を組織して、16,000枚のコインを作りました。酒を飲まないと働かない人もいたらしく、「この職人はアルコールの影響下に置かれるときのみ、力を発揮する」みたいな、一見美しい言葉で描写された文章まで残っています。

中田:その後、ドイツ下のタボラ臨時政府はベルギー軍に攻め落とされ、結局コインのほとんどは地金目的で没収・溶解されてしまいました。ごく少量だけ残っているのが、コレクターズアイテムとして出回っているんです。これだけ象が綺麗に刻印されているコインは珍しいので、人気がありますね。

(後編へ続く)

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