株式会社ABCash Technologies 代表取締役社長 児玉隆洋さんと、WealthPark研究所の加藤が対談しました。「社会における投資の重要性」、そして個々人が資産運用力を身に付ける為の「金融教育」という2つのテーマに沿ってお話をお伺いします。
株式会社ABCash Technologies 代表取締役社長 児玉隆洋(こだま たかひろ):1983年宮崎県生まれ。大学卒業後、サイバーエージェントに入社。Amebaブログ事業部長、AbemaTV広告開発局長を歴任。2018年、海外に比べて遅れている日本の金融教育の必要性を強く感じ、株式会社ABCash Technologiesを設立。代表取締役社長に就任。好きなものは、サーフィンとキックボクシング、松屋の牛丼。
WealthPark研究所 所長 / 投資のエヴァンジェリスト 加藤航介(かとう こうすけ):「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための研究、啓発のための情報発信を行なう。2021年より現職。
投資は人生の可能性や選択肢を広げてくれるもの
加藤: 本日は「社会における投資の重要性」、そして個々人が資産運用力を身に付ける為の「金融教育」という2つのテーマに沿って、お話をさせていただければと思います。
私が所長を務めるWealthPark研究所では、投資の素晴らしい側面をきちんと伝えることを目的に、様々な研究と情報発信を進めています。私はこれまで世界30カ国以上を仕事で訪れましたが、「貧しい国」と「富める国」の違いをみると、子供、家族、従業員、研究開発、インフラなども含めて「広義の投資文化」が根付いているかが、重要な分かれ道になっていると考えています。先日、弊社の社員向けに「投資って素晴らしい!」というタイトルの講義をした時には、投資とは労働や選挙と同様に、社会参加であり社会貢献であるというメッセージを共有しました。投資には、自身の老後の金銭的な不安を減らす力があります。そして、社会的には新しく事業を始めたい人の応援や、権力を持つ上場企業のモニタリングなど、世の中全体への良い作用があります。児玉さん自身の、投資に対するお考えを是非、お聞かせください。
児玉:「投資って素晴らしい!」は良いメッセージングですね。私自身は、お金や投資を「人生の可能性や選択肢を広げてくれるもの」として発信しており、その考えは弊社のサービスの根底に流れています。お金儲けや資産を増やすことだけが投資の目的ではない。大切なのは、一度しかない人生で自分が心からやりたいと思えることに挑戦できる選択肢を増やすことです。日本人は義務教育の過程でお金について学ぶ機会を与えられず、「投資って素晴らしい」ではなく、「投資って怖い」という思考に陥りがちですよね。歴史を俯瞰すると、生存競争に晒されてきた人類は、そもそもDNAレベルで未知のものに対しては恐怖を感じます。金融教育を提供する身としては、こうした恐怖心を克服し、「投資って素晴らしい」という思考にスイッチするために、早い時期から投資を学ぶことが大事だと思っています。
知識が少しでもあれば恐怖心は取り除ける
加藤: 人類が自然界で生き抜いてきた本能が、現代での金融の投資を進めるための障害になっている。これは大いにあると思います。
児玉: はい。重要なのは、知識が少しでもあれば、不要な恐怖心は取り除けるということです。人は、全く知らないことであるから、怪しいし、怖いと感じる。私は英語がそれほど得意ではありませんが、海外の方に道を聞かれたら、学校教育で英語を習っていたお陰で意思疎通を図ることができます。でも、これまで一切英語に触れていなかったら、逃げ出したくなると思うんです(笑)。投資もこれと同じですよね。例えば、資産運用の経験がない方に、「100万円を預けて1年後に140万円になるという投資の誘いに対して、どう思うか?」という質問をすると、詐欺なのか、良い話なのか、判断に迷われるんですよね。多くの方は年率40%の利回りに妥当性があるか分からないんです。それは、単に投資における相場を知らないからです。私は牛丼が好きですが、いつも300円で食べている牛丼がある店で30円で売っていれば、「常識から考えておかしい。この店は賞味期限が切れている肉を使っているのではないか?」と疑います。この様に、モノの値段というか、相場を知っていることは自分を守る知恵になります。まず、基本の「キ」を知っておくことが、その人の人生に大きなプラスをもたらすと思います。
加藤:牛丼の例は、モノの値段や相場を考える上で非常に分かりやすいですね(笑)。同じ様な話ですと、私は「資産運用では利回り何パーセントを目指したら良いですか?」という質問を受けることが多いのですが、その時は「長期で、年利回り5%を意識してください」と答えています。その理由は、過去の世界の一人当たりGDPは概ね年5%伸びており、今後も同様の成長が予想されているからです。世界経済が成長するスピードで資産が増えていくのは、至って常識的で、何ら無理はしていませんよね。外国の様々な資産を気軽に個人で購入することが可能になった今、我々の資産運用の偏差値50は「年利回り5%」とも言えると思います。この様に、経済全体から考えた資産の利回りの相場感を持っておくと、投資詐欺などには引っかからないし、投資に対する「怖さ」が取れるのだと思います。
若い女性に受け入れられるカルチャーが、新しい時代の流れをつくる
加藤:御社の主軸の金融教育サービスはミレニアルの女性にターゲットを絞っていらっしゃいますが、これにも理由があるのでしょうか。
児玉:私の前職のサイバーエージェントの創業者の藤田さんから、「若い女性がドミノの1ピース目になる」と言われ、それをよく覚えています。つまり、国民的レベルの変化(ドミノ倒し)が生まれるには、まず若い女性にそのファンになってもらうことが重要ということです。Ameba ブログやInstagramも、まず若い女性の間で流行してから、男性、中高生、シニアと、国民全体に広がっていきました。渋谷に本社を置いている理由も、若い女性が生んだ新しいカルチャーが、世の中の新しい流れをつくっていくという考え方に基づいています。
加藤: 世の中を変革する鍵を若い女性が握っているという視点は、非常に興味深いですね。「女性と投資」という観点で考えると、確かに女性は化粧品や洋服、習いごとといった、いわゆる自分磨きの「自己投資」を積極的にされている方が多い印象があります。
児玉: はい。女性は長期的な視野に立って、今の自分に何が必要かを考える癖がついている人が多いと思います。ちなみに、ABCashが提供する「お金について学ぶ」サービスのビジネス上の競合は、金融教育をしている同業他社ではなく、プログラミング、デザイン、英会話、お料理、着付けといったスキルを身につける金融とは関係のない競合なんです。そうした色々なプログラムと比較検討された上で、次は「お金のスキルの獲得に投資をしたい」と思われる方が、弊社の講座を受講してくださっています。
加藤:なるほど。ABCashさんは、人々の「お金の不安を取り除く」という大きな目標があって、そのための一歩として若い女性をターゲットにされたということですね。一方、WealthParkのお客様はシニアの男性の不動産大家さんが現状多く、御社とは真逆にも見えますが(笑)、最終的には全ての世代の方にサービスの対象が広がっていきます。例えば、シニアで高齢なお客様には相続のタイミングが必ず訪れるので、その御子息である40代、50代にお客様の層が移っていくのは必然です。その世代の方はデジタルに精通し、WealthParkが提供する機能をフルに使いたいという顧客でもあり、我々のアプリを最大限活用しながら資産運用をもっと自分ごとにしていかれます。
一人一人のライフプランに合った、新しい資産運用教育の必要性
加藤: 昨今、「老後2,000万円問題」が議論を巻き起こしましたが、平成の時代を振り返ると、個々人に資産運用が定着しなかった故に老後の不安が残ってしまったことを遺憾に思います。今後、令和30年を迎えた時には、絶対に同じことが起きてはならないと強く感じます。個人レベルでも機関投資家レベルと変わらない資産運用が可能になった1990年代の金融ビックバン以降、日本人に正しい資産運用力があれば、個人金融資産総額は現在の約2000兆円の倍である4000兆円になっていても、なんらおかしくなかったでしょう。過去に見られた機会損失を日本社会全体で繰り返してはならないと思います。
児玉: 日本人は勤勉ですが、保守的というか、変化に対する順応性が低い側面があるのでしょう。そのため平成の時代に求められた資産運用力が身に付かなかった。日本でも終身雇用ではない多様な働き方が生まれてきましたが、より多様化が進む令和の時代には、「パーソナライズ化」が大きなテーマになっていくと考えています。お金に関する学びについても、共通の基礎知識に加えて、一人一人のフェーズやライフプランに合った、新しい資産運用の理解と行動が必要になっていくと。
加藤:そう思います。基礎知識は大事で、それを身に付けておけば、応用が効きますよね。自分自身を振り返っても、20代と今ではモノの考え方や価値観、仕事も異なるので、時が経つにつれてアップデートが必要なのは絶対だと思います。ここで基礎さえしっかりしていれば、自分の人生がどう変わっていこうと金融の側面は修正して対応できるし、もしくは人生自体を時代の変化に合わせて積極的に捉えることにも繋がると思いますね。
児玉: 時代や人の価値観の変遷に関わらず、「お金」は人間社会に組み込まれて役に立つものであったからこそ、今でも残っているわけです。貝殻だったり、金貨だったり、デジタル通貨だったり、形を変えながらも、お金の存在意義や存在価値の本質は変わらない。そうした広い枠組みで考えると、労働による収入と、資産運用による収入は、どちらも社会に貢献したことに対する対価なんですよね。そして、資産運用の力は個人の人生の選択肢を増やす手段の一つになります。
日本では先50年程度で人口が約30%減ると予想されていますが、それに対して何も備えていなければ、正直、大変なことになるでしょう。その備えを個人の力で行なわなければならない時代に突入したからこそ、労働で稼ぐ以外の手段に皆さんの目線が移るのは当然と思います。「老後2,000万円問題」がきっかけとなって、多くの方が資産運用を真剣に考える様になったのが今の日本の現状だと思います。
(後編へ続く)