世の中を前に進める新しい発想やエネルギーの源であるアート。現代アートのレンタルサブスクリプションサービス「CURINA」は、そうしたアートが社会により溶け込んでいくために、レンタルという入口をつくり、アートを取り巻くエコシステムに参画できる人を増やしています。ニューヨークを拠点とする「CURINA」のファウンダー・CEOである朝谷実生さんとWealthPark研究所 所長の加藤が対談し、社会を彩るアートから投資の本質を考えました。
Curina CEO 朝谷実生(あさたに みお):Curina(キュリナ)は米国ニューヨークに拠点を置き、現代アートのレンタルサブスクリプションサービスを展開している。2021年3月には、8000万円の資金調達を発表し米国全土での展開を開始。
WealthPark研究所 所長 / 投資のエヴァンジェリスト 加藤航介(かとう こうすけ):「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための研究、啓発のための情報発信を行なう。2021年より現職。
アーティストは社会のアントレプレナーである
加藤:個人的には、世の中のニーズの解決をビジネスモデルとして表現するアントレプレナー(起業家)と、自分の内なる情動を作品として表現するアーティストは近しい存在と考えていますが、朝谷さんはどうお考えでしょうか。
朝谷:アーティストは個人事業主ですし、基本的にアントレプレナーの精神がないとやっていけないと思います。彼らは自分のアート作品を「商品」と言うと嫌がりますが(笑)、商品を企画して、製造して、商品のラインナップ、つまりは作品のポートフォリオを充実させて、営業活動をして、販売して、在庫管理や財務管理もする。このように、つくるところから売るところまでの一連の流れを繰り返してビジネスを回していくという意味では、アーティストはまさにアントレプレナーですよね。
一方で、アーティストは基本的には創作活動だけに注力したいし、それ以外の部分を誰かに肩代わりしてほしいと思っています。著名なアーティストほど、クリエーション活動以外の仕事をマネージしてくれるビジネスマネージャーやディーラー、広報を雇うことが多いですし、成功しているアーティストこそ、そうしたビジネス活動が上手だなと感じます。Curinaも、レンタルビジネスの次のステップとしては、ポテンシャルが高いアーティストを選んで、彼らに対してお金を集めて支援するファンド的な役割も担いたいと思っています。
加藤:アートを持つ手段で言うと、レンタル以外にも、小口化された権利を所有するという選択肢もありますが、朝谷さんの中ではレンタルと小口所有はどのように位置付けていらっしゃるのでしょうか。
朝谷:アートにおける小口所有ビジネスとレンタルビジネスは、そもそもの目的やニーズ、つまりは対象となる顧客層が異なると考えています。弊社のお客様は実物を飾りたい、でも購入となると手が出せないのでまずはレンタルからスタートし、気に入ったものがあれば実物を所有したいと思っている方々です。将来的に有望なアーティストの作品を購入したいという思いは持っていますが、投資よりもまず先に、暮らしの中で実物の作品を愛でられることに一番の価値を見出されています。初めから小口所有は好まれないので、小口所有とレンタルは直接の競合ではないと考えています。
加藤:スタートとして、投資が目的なのか、アートを楽しむことが目的なのか。お客様の真の目的やニーズへの向き合い方が、両ビジネスで異なるわけですね。小口所有では実物を家に飾れないのは確かですね。僕の先輩にクラシックカー愛好者がいますが、彼は車の金銭的価値が上がるから所有しているわけではない。車を芸術作品として見ていて、また実際に運転して楽しむことに価値をおいています。
朝谷:もしクラシックカーの共同所有があったとして、年に数回とか実際に運転を楽しめるといった仕組みがあれば、また話は違ってきますよね。同様に、アートの共同所有に関しても、例えば年に数ヶ月間は自宅に飾れるといったオプションがあれば、性質が変わってくるのかなと思います。
アートを正しくブランディングしていけば、社会はもっと楽しくなる
加藤:自宅に飾れるのか、実際に乗れるのかという「実際の体験」が入ると、資産の意味合いが大きく変わりますね。面白いし、本質的なポイントだと思います。次に、アートとテクノロジーの話をさせてください。AI(人工知能)とアートの関係について、朝谷さんはどうお考えでしょうか。これまでの歴史の中では、例えばカメラや写真の誕生で、絵画の位置付けやアーティストに対して社会が求めることが大きく変遷してきました。そして今まで、動画、デジタル、AIといった様々な技術が生まれてきましたが、これらはアートとぶつかるものというよりは、後々から見ればプラスに働く可能性を秘めているものと捉えていますが、いかがでしょうか。
朝谷:AIがつくったアートが先日数千万円で落札されていましたが、個人的には面白い変化だと思っています。アーティストもAIのアートには関心を持っているし、AIとコラボレーションして作品をつくってみたいと言う人もいれば、AIには負けないような感動を与える作品を人間がつくらないといけないと考えている人もいます。
ブロックチェーン技術を使ったNFTアート(非代替性トークン・アート)の盛り上がりも私自身は興味深く見ています。ただ、NFTアートはまだまだ新しく、NFTアートのオークションに参加し、高値がつく人は結局は一握りとなってしまっていて、批評できる人や目利きできる人もまだいないので、本来であればアートだとカテゴライズされないものも取引されていたりするのが現状だと思います。それらが整っていくと、こうした新しいアートはもっと面白くなるでしょうね。
加藤:NFTアートは、ともすれば価格だけに目が行きがちで、ニュースも価格の側面を取り上げる傾向がありますが、アート本来の側面に目が行くと良いですよね。ビットコインなどの暗号資産でも、その価格が上がった下がったという話ではなく、その土台になるブロックチェーン技術が社会に何をもたらしたのかにスポットがもっと当たると良いな、と私自身は考えています。
AIとアーティストのコラボレーションも面白いですね。AIで仕事がなくなる、人間社会が滅びるといった、いわゆるAI脅威論も目にしますが、それは車やコンピューターが登場した過去の時代もそうでしたよね。でも、アーティストや起業家といった人達は、新しい発想や技術をどんどん自分の世界に取り込んでいく。新しいものを吸収して表現する活動が社会を豊かにするのだろうと、CEOの川田ともよく話しています。その為には、今日お話に出たように、アートを単なる金融商品と考えないように留意していくことが大切だと思います。
朝谷:もちろんアートは金融商品という側面はありますし、私もビジネスとしてアート投資やアーティスト投資の領域にも入っていきたいと思っています。ただ、アートは値段があるようでないので、伝え方や見え方、ブランディングが非常に重要です。金融商品として売買するという側面があまりにも前面に出ては、きちんとしたアーティスト、ギャラリー、コレクターはついてきてくれません。また、単にアートを倉庫に置いておくだけではなく、アーティストの認知度や作品の価値が上がる為の人の目に触れる活動が必要で、一般の金融商品とは違うものとして扱ってあげないといけないと思います。
加藤:なるほど。アートへの投資について、非常に理解が進みました。私個人としては、株や不動産においても、その資産の背景にある人の想いや歴史、社会における豊かさと幸せとの繋がりを理解することが、長期の資産形成を成功させる為に一番大切だと思っています。本日はありがとうございました。
朝谷:ありがとうございました。