ユーラシア・グループの「GZEROサミットJapan 2022」に参加しての所感

ユーラシア・グループの「GZEROサミットJapan 2022」に参加しての所感

WealthPark研究所 所長 加藤航介がユーラシア・グループの「GZEROサミット Japan 2022」に参加してきました。当日の所感をお届けします。

2022年10月28日、ユーラシア・グループの「GZEROサミット Japan 2022」に参加してきました。約10時間に渡り、日本と世界の政財界のトップリーダー達が集い意見を交わすコンファレンスであり、世界情勢の確認から自分自身の軸足を確認する大変に良い機会となりました。

アジェンダや登壇者などはこちらにあります

登壇者は、大変に豪華な顔ぶれでした。岸田首相、小池都知事、林外務大臣、十倉経団連会長、西村経産省大臣、林国際協力銀行(JBIC)総裁、宮園GPIF理事長、河野デジタル大臣、中谷元防衛大臣、小柴経済同友会副代表など。その他、PWC、Microsoft、BONYの要人や、元Googleのエリック・シュミットなど。

私は、過去100回は、何らかのコンファレンスと言われるイベントに参加していると思いますが、これだけのメンバーを集められるイアン・ブレマー代表の求心力、そして公私共に交流をさせてもらっており、我々のような一介のスタートアップ企業を同イベントに招待してくれた日本でのユーラシア・グループ主幹の稲田氏の企画・調整力には驚かされました。並大抵の蓄積と応援がなければこのような場は用意できないでしょう。全て英語で進行された会議であったことも、日本人の登壇者もざっと8割が英語のみでパネルに参加していたことも、素直に驚き、嬉しく思いました。

ポストコロナとウクライナ動乱を経て、次なるグローバル社会はどのような姿になるのか、What comes next?がサミットのテーマです。地政学、ビジネス、スタートアップ、ESG、DX、サプライチェーンなどのパネルや講演が設けられていました。

まず感じたのは、このコンファレンスに集まるメンバーは、ダボス会議同様、グローバル化と自由市場経済を正しい価値観として置いているということです。今回の面々を見れば、今の自民党政権も、世界のテック企業も、人々の社会の豊かさと幸せのために、それらの価値観が極めて大切だと考えているということです。政財界のグローバル、ローカルのリーダーが、何の価値観や哲学を軸にして日々の意思決定をしているのか、その根底を感じることができたことは大変に有意義でした。

そして、グローバル化や自由市場経済を支持するという立ち位置は、世界のテック企業同様、我々WealthParkも全く同じです。我々は機会の平等と結果の不平等を伴うグローバルな自由市場経済をサポートする一企業であり、最小不幸ではなく最大幸福の追求が世界を豊かにする基軸であるという価値観の下に存在しています。格差を全て悪とする社会主義やポピュリズムではなく、格差の存在を時には勇気を持って受け入れる、ただし機会の平等やチャレンジには徹底的に拘るべき、というのがWealthParkの立ち位置とあらためて思いました。日本社会で普通に生活し、日本語だけでメディアに触れている日々が続くと、このような軸をしっかり保つのは意外に難しいことだと思っています。

約10時間に渡る会議からの私の持ち帰りは2つの言葉に集約されます。ディスロケーションとエクスターナリティです。ディスロケーションとは、肩が外れるとかの「脱臼」という意味ですが、ここでは社会が豊かで幸せな未来に進むための「何かの歯車が外れている状態」を表しています。個人的な話ですが、私が、最近、近所の整体院で骨の位置を正しい位置に治すことにはまっていることもあり、それで体調の劇的な変化を感じているので、この会議でディスロケーションの理解がより自分の血肉になったと思います。

社会のディスロケーションの例を言えば、女性やマイノリティが社会で十分に活躍できていない、世界から優秀な人材やお金を集めてチャレンジしていく土台がない、DXの社会実装が遅れている、社会で大量の余剰資金が余って有休している(ベンチャー投資や起業家の量と質が少なすぎるなど)、工業サプライチェーンが崩れている、などの状態です。私が運営するWealthPark Labでは「投資→成長→豊かさ」のサイクルがこの社会の縮図であると主張していますが、このサイクルの歯車が噛み合って、うまく回っている個人、家庭、企業、国は豊かさと幸せを手にしていきます。

一方で、何らかのディスロケーション、つまり脱臼が起きていると、このサイクルが回らず目詰まりをしていまう。人々が働けど働けど、歯車が噛み合っていないので、豊かにも幸せにもならないという状態に陥ります。人体で最も大きく大切な関節は股関節(骨盤)とか肩甲骨周りなどですが、GZEROサミットの多くの登壇者は社会の健康のために重要な要素を、グローバル化、人権、民主主義、法の支配、自由経済などとして置いており、それらのディスロケーション(脱臼)が世界や自分達の周りで起きていないか、そしてどこにリスクがあるのかをリーダー達が確認・チェックする場所としてこのサミットが機能しています。こういう場があることは大変に重要だと思います。毎週、教会に行くのと良く似ています。初詣などで自分のアイデンディティを確認するのとも同じです。非日常の場所に行き、自分に向き合うのです。

続いて、エクスターナリティ、外部不経済です。経済学の用語ですが、岸田首相が最近、よく伝えています。ゴミのポイ捨て、タバコの副流煙、工場の汚水や排気ガスも、過度な残業などがわかりやすい外部不経済でしょう。それを行っている本人達は、スッキリしたり、儲かったり、自己満足したりして幸せなのですが、それが社会全体に迷惑をかけていて、全体で見ると多くの不幸せを作り出している状態、その事例の事をいいます。いわゆるエゴであり、自由経済の副作用となります。こういう外部不経済は学者がデータを分析して社会問題としての認知を高め、国が規制をかけるか(欧州的)、イノベーションで解決するか(米国的)で、少しずつ消えてきました。

実際に、工業公害も相当に減ったし、喫煙場所も分離されたし、全体として社会は良い方向に向かってきたと思います。そして、現在、今までとは比べものにならない、とてつもないスケールの外部不経済の解消運動がESG/SDGという文脈で一気に訪れているのはご存知の通りです。温暖化と生物多様性などの環境問題や、マイノリティなどの社会参加などの問題です。

特に環境問題は、化石燃料の利用という過去数百年の人類経済の大イノベーション、かつ成長ドライバの根幹を逆回転させるという点で、社会インパクトは極めて絶大です。20世紀から最近までは「環境や社会を少々毀損しても、人々の支持を得ているビジネスは大目に見られるべきだ」という風潮でしたが、更なる成熟した社会へ進もうと、環境について言えば京都、パリ、COP会議などでコンセンサスが固まってきた訳です。実際のところ、足元ではCO2の算定も開示も取引もルールはまともに固まっていませんし、それを全ての経済活動主体で網羅的に把握するのは数十年かけてもできるのか、全く分かりません。テーマが大きすぎて、殆どの企業も何をやらなくてはいけないか、明確に分からないのが現状です。

ただ、「外部不経済を取り込んでも価値を生み出す」という自発的姿勢が企業に求められる潮流はほぼ間違いないでしょう。CO2の社会全体の管理ができないから削減に取り組まないのではなく、例えばガソリン車を廃止するとか、太陽光の導入をMUSTにするとか、全体像や細部が分からなくても、できるところから手探りでもやっていこうという動きが急速に進んでいます。ただ、外部不経済は挙げれば千でも万でも、キリがないという問題もあります。ですので、我々のような一企業としては、社会の潮流で外部不経済と認知されていくものを理解して、対策していくことになると思います(少し受身でしょうか。それでもやるべき課題は山ほどありますので)。

EであるEnvironmentでは、WealthParkはDX企業であるし、脱ペーパーを中心とした非効率なアナログ業務の改善で貢献を果たしていると思います。一方、SとGであるSocialとGovernanceでは、女性や外国人の活躍にはより向き合っていかねばならないでしょう。WealthParkでは社員の約半数が外国人であり、海外からの売上比率も相当大きいので一般の日本企業やスタートアップに比べると外形的には何歩も進んでいると取られがちですが、本当の意味でSとGのインクルージョンに向き合うスタートラインに立っているだけ、であると思っています。

NASDAQは、この7月から人種的マイノリティーやLGBT、女性の取締役登用を義務づけるとしました(移行期間を認めるも)。端的に言えば白人の男で経営をしている会社は社会悪である、工場から汚水を垂れ流しているのと同じである、と表明したわけです。世界の生産、消費、雇用というのは株式会社で形成されており、社会の公器とも言える大企業が集まる上場市場の制度やルールというのは、我々社会のルールをそのまま規定するとも言える非常に大切なものです。NASDAQの決定は、近い内にSとGにおける公害を垂れ流す企業は、生産や雇用の活動がまともにできなくなることを意味します。上場して資金調達することも、未上場の段階でストックオプションなどで優秀な人材を集めることもできなくなる訳です。

それでは非上場企業でいれば良いかというと、そんな訳にはいきません。上場している大企業は、取引先、供給先の非上場企業にも同様の事を求めていくのが必然で、それは時間の問題であるからです(反社会的勢力への規制と同じことです)。経営陣や従業員の多様化を進める努力をしながら利益を出し続けられる企業しか、新しいグローバル自由主義経済では認めない、という潮流が始まったということに思います。もともと他民族であり、既に企業や学校において社員や学生の一定数のマイノリティや障害者を必ず受け入れるルールを敷いているアメリカとしては、この変化は何とか対応できるレベルの話でしょう。

ただ、これを外国人労働者が少ない、そしてジェンダーギャップが大きいとされる日本での人材市場に根差す日本企業におきかえると、とてつもなく難しい課題に写ります。結局、トップダウンにより企業内でクオーター制を進めていくしかないのですが、WealthParkの根底にある価値観である機械の平等を鑑みると、そのような外部不経済にもう一歩踏み込んでいくステージに我々が来ていることを、今回の会議では改めて感じました。(クオーター制を入れるとは、例えば企業であるポジションが空いていて、例えドンピシャな能力がある人が見つかっても、女性比率やマイノリティ比率に引っ掛かれば、総枠が優先されてその人物の採用は見送られるということで、外資系企業やその日本オフィスでは普通に行われています。学校の入学でも、入学基準を充分に満たしたマジョリティが不合格となり、そうでないマイノリティが合格させる、それがフェアという考え方です)。

最後に、会議においていくつか印象に残ったコメントを残しておきます。

・PDCAサイクルへの信奉を止めよう。これが日本企業の低生産性、そして組織内の巧妙な責任回避を生み出している。Plan-Delay-Cancel-Apologizeばかりやって、誰もチャレンジしない。

・日本が世界に対して遅れていることについては、素直に認めよう。この社会にはWinnerとLoserは必ずいる(結果の不平等のこと)。競争を恐れてはいけない。次があればいいのだ(機会の平等のこと)。

・今後の日本の国際関係は、米国とは軍事、中国とは経済、欧州とは民主主義、が基軸になるだろう。

・日本のVC投資は、アメリカの1/100だ。子供が大企業グループに勤めたのを親戚に自慢する親達が変わらないとダメだ。欧州ですらそれは変わりつつある。

・特に金融業界のDX化は極めてEarly Stageである。大きなチャンスがあるだろう。

・過去何百年のグローバル化のトレンドが終わったと煽るメディアがいるが、大きな間違いだ。中国と米国という二国でさえ、今後数十年は、相互依存性を強めていく。

・まだ冷戦時の二軸で世界を見ている人が多い。多軸で分散された世界がここにある。世界のアジェンダを1人で決められる国はいないのだ。そして中小国が発言権を持つ大きなチャンスである。

・非財務データのデータ化の取り組みが大切だ。データが新しい資産クラスになるのは間違いない。

所管としては、こんなところです。とても有意義な1日でしたが、「各界のトップランナーに実際に触れる機会を作る」ことの重要性を改めて感じました。

そして、WealthParkが進めるオルタナアセットの解放も同じに思います。優良な投資案件(不動産でもアートでも)に実際に触れて、自分で投資の体験をする。DX企業としては、世界No.1のアプリケーションを作り、優良な投資案件を顧客が実際に触れる機会を作っていくということかと思います。GZEROサミットと同じく、そのようなプラットフォームの提供は極めて社会的な価値があるチャレンジだと確認することもできました。

WealthPark Labでは、プロップテックと資産運用のThought Leadershipを取るべく、そしてLabのメンバーはそれらのエバンジェリストとして、引き続き、努力を続けたいと思います。

WealthPark研究所 所長 加藤航介(かとう こうすけ)‐ プレジデント/インベストメント・エバンジェリスト:「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための研究、啓発のための情報発信を行なう。2021年より現職。

加藤航介のプロフィールはこちら

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