小島氏(仮名): 大学院を修了後、大手総合電機メーカーに研究開発のエンジニアとして就職。数年後、イギリスの大学院での研究生活中に、産業革命の歴史や資本主義の神髄に触れ、金融・投資に目覚める。帰国後はシンクタンクに転職し、先進欧米のオルタナティブ投資やベンチャー投資などの海外調査に従事。その後、大手メガバンクグループに転職し、クロスボーダーM&AやIPOの国際アナリストとして活躍。50歳を超えてマイホームを新築して、副業として不動産投資(アパート)を開始。現在は12棟(8棟新築)のアパート経営、太陽光発電投資のキャッシュフローをESG投資などで運用し、収入の複線化と「プチFIRE(Financial Independence, Retire Early)」を模索中。
WealthPark研究所 所長 加藤航介(かとう こうすけ)‐ プレジデント/インベストメント・エバンジェリスト:「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための研究、啓発のための情報発信を行なう。2021年より現職。
今、集中的に注力する先はESG投資
加藤: コロナ禍の不動産投資への影響はいかがでしたでしょうか。世界や社会の変化を踏まえて、新しく力を入れている投資先はありますか。
小島氏: コロナに関して言えば、家族用の部屋への影響は見られませんが、若い人達に貸している1Kなどの物件に影響が出ていますね。失業やテレワークで都心に住む必要がなくなって実家に戻るケースも出てきており、需要の変化への対策に今は追われている状況です。
不動産投資以外で私が新しく力を入れているテーマは、所謂ESGやSDGsです。ESGは明日、今年の売上には繋がらない、つまりは儲からない印象がありますが、これは将来的には大きく変わっていくと見ています。例えば、反社会的勢力に関わるお金への社会的監視は、昔と比べて非常に厳しくなっていますよね。様々なデータベースも整備され、そのような勢力とは関わりがないような企業活動が徹底されています。そして、将来的には同じ様なことが、環境破壊に加担するリスクのある事業や企業についても行われるのではと思っています。また、経済的な利益を意識したインパクト投資にも注目しています。そんなこともあり、今の私の金融資産のポートフォリオを見ると、ESG系の投資額が、昔はたくさん持っていた海外株式のインデックスファンドへの投資額より大きくなってきていますね(笑)。子供達の世代のことを考えても、利益が上がることだけに飛びついて環境を破壊すべきではないですし、私はよりESGに軸足を移して投資をしていきたいと思っています。
加藤: 倫理的な理由に加え、ESGやSDGsを実装している企業の価値が上がっていくことを見据えて、投資の配分を上げているということですね。2050年にカーボンニュートラルを実現する為には、世界で8000兆円の新規投資が必要だという試算を見ましたが、言い換えれば、その金額の投資を行えば社会の構図も変わるということだと思います。SDGsのうねりは重要で、世の中が良くなっていくという実感は自分の子供にも伝えたいと強く願います。
投資のリターンは、麻雀やポーカーみたいなゼロサムゲームではなく、社会が真水として豊かになった一部を、後で受け取るということですよね。その意味で、ESG投資は本質的であると思いますし、世界全体を豊かにしていく草の根的な活動としてSDGsという旗振りは大切だと思います。
あと、私は変動の大きい上場企業の世界株式への投資のプロだったのですが、変動が大きい商品を一般の人たちが扱うことに対する危惧も少なからず持っています。先に出たインパクト投資などが人々に一般化する中での商品の変動性の高まりとどう付き合っていくべきか、引き続き、考えていきたいと思います。
個人が消費者・労働者以外の形で社会に参加していくと、世の中全体が良くなっていく
加藤:ところで、小島様は不動産投資において、ありとあらゆる情報の電子化とクラウド化を徹底されていらっしゃるようですね。
小島氏:コンピュータをつくっている会社にいたものですから、電子化にはうるさいんです(笑)。クラウドは登場した頃から使っていて、今はクラウドにアクセスしないと使えないPCを使っているぐらいです。クラウド内で文書の作成・保存もAI支援の会計ソフトの利用も完結するので、日本でも世界のどこからでも、場所を選ばずに不動産経営ができてしまうんです。私にとって不動産投資は副業なので、会社のPCに資料を入れておくのも良くないですし。端的に言うと、人を雇うよりもAIや最先端の機器を使う方が、自分自身で全部できて効率が良いと思っています。コンピュータを自由自在に使えない限り、今や、どんなビジネスでも勝つことはできないでしょう。
少し話は逸れるのですが、コンピュータと人間の関わりという点では、我々がAIの補助的な仕事をやることはあっても、AIに我々が支配される世界は来ないと思っています。私が研究者であったずいぶん昔の時代でも人工知能と呼ばれているものは存在していましたし、今は第3次AIブームですよね。科学技術って、実はブームが何度も到来するんです。私は超伝導分野で学位を取りましたが、正に何度もブームが来ていました。そして日本はブームに乗って科学技術の予算の配分を決める傾向があって、ブームが過ぎ去ると基礎研究をやっていた人間は放り出されるという悪習があります。私は高温超電導ブームの最後の生き残りだったのですが、留学から帰国したタイミングでは、もはや私のやっていた研究を行なっている大学もなく、実はそうした運命のいたずらで金融の世界に飛び込んだんです。
加藤: 研究開発投資って、投資の最たるものですよね。今日は金融投資、不動産投資、ESG投資のお話などを伺いましたが、人的投資、教育投資、研究開発投資などのすべてが世の中を豊かにする「投資」ですよね。我々の様なDXベンチャー企業はよく「再定義する」という言葉を使うのですが、先程のお話で「投資という言葉の再定義」の必要性をさらに実感しましたし、基礎研究をどう扱っていくかは日本の大きな課題だと思いました。税金は投資の原資ですが、一般の市民が投資に対してアンテナが高くなっていけば、あるブームで研究予算の配分が振り回されることもなくなり、本当に必要な基礎研究にお金が届く様な良い社会になるのでしょう。人々が、段階的に投資を経験しながら投資のリテラシーを上げていき、消費者や労働者の立場に加えて資本家(投資家)の立場で社会参加をしていくことが、世の中全体を良くしていくことになるのでしょう。
アフターコロナでは世の中にどれだけ役に立つかが大きな価値・利益に繋がる
加藤: 数多くの物件をお持ちで、新築と中古でハイブリッドな不動産経営をされている小島様ですが、これからは投資の方針はどうされますか?よりESG投資、インパクト投資に舵を切られていくのでしょうか?
小島氏:これだけ人を困らせるウィルスが世の中にはびこっていて、我々も相当に苦しんでいます。今の状況は私たちが自ら選んだものではないし、元に戻るかはわからないけれど、どうにか戻したいですよね。そしてアフターコロナでは、もっと倫理的なものが大事になってくると思います。ドイツの哲学者、マルクス・ガブリエルの言葉を借りると、「社会課題を解決し世の中にどれだけ役に立つかが、価値や利益に直結する。」持続可能な倫理資本主義の到来だと思います。不動産事業は、単に住宅を提供するだけでなく、例えば、高齢者の為に工夫を施した住宅の運営などを手掛けたいと考えていて。他にも、アフターコロナで、駅からの距離が重要ではなくなり、田舎に戸建てを建てて住む人も増えて、アパート投資の世界感もなんとなく変わってきていると思っています。もちろんまた皆が出勤を再開して、駅近が重視される世界へ戻るかもしれないので、両方向を見据えてはいますが。ただ、ウィルスがこれだけ社会的、そして経済的格差を拡大させたアフターコロナの時代では、倫理的なものがもっと意味を成す様になってくるのと考えるので、経済的弱者の方々を救うようなビジネスは成立するのではと思うんです。築年数の古いアパートや中古の一戸建てをリフォームして、低い賃料で単身者や家族が入居できる住宅を提供するといった、社会に役立ってなおかつ利益を上げる、皆さんに祝福されるビジネスモデルに投資したいと考えています。まさに、リアルエステートのESG投資だと思います。
加藤: なるほど。私も父親の介護の経験などを経て、高齢者の介護施設の物件も保有しており、おっしゃることは大変によく分かります。社会を支える為に投資をするという視点は、確実に大切だと思います。倫理があってこそ投資が成立するといいますか、そのような側面は私も啓発していきたいトピックです。本日は、科学や歴史、そしてグローバルなご経験を踏まえた、投資に関する深いご賢察をお話いただき、ありがとうございました。