関田タカシ(せきた たかし):学生時代に『金持ち父さん』シリーズに影響を受け、在学中に起業。 その経験を就職活動での武器に、不動産・金融を目指す。 大学卒業後、大手不動産仲介業者(実需)にて活躍。転職を経て「投資用不動産」に集中できる、収益不動産専門の売買仲介業に従事。 そこからヘッドハンティングされ、現在では、国内外年間約200億円の収益不動産を扱う投資用不動産専門業者の売買営業担当に至る。https://sekitatakashi.com/
WealthPark研究所 所長 加藤航介(かとう こうすけ)‐ プレジデント/インベストメント・エバンジェリスト:「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための研究、啓発のための情報発信を行なう。2021年より現職。
投資家と不動産業者の利害を一致させていくには
加藤:対談の前編でも触れましたが、インターネットやSNSなどのテクノロジーの進歩によって、不動産に関わる情報はかなり「民主化」したようですね。私が学生の頃は、まだインターネットの黎明期でしたので、SUUMOやホームズの様な物件検索のポータルサイトすらありませんでした。賃貸物件を探すにも、街の不動産の張り紙をつぶさに見ていくなど、とても大変だったのを覚えています。また、敷金・礼金や、原状回復の責任など、何かと不明瞭でしたね。
今ではSNSも普及し、悪徳不動産業者や事故物件などはすぐに知れ渡ります。不動産がより透明化されたことで、市民にとってはより安心できる社会になってきたと思います。そして、数年後には国を挙げて不動産IDの導入が予定されており、さらなる情報の民主化が進む予定です。物件の建築後からの売買や修繕の履歴など、将来の不動産投資家の意思決定に関わる重要な情報が、不動産IDに紐づけられて一元管理されてオープンになっていく。これにより不動産業界と不動産投資の透明性がさらに引き上がることになります。こうやってみていくと、少しずつではありますが、テクノロジーの力で社会全体が良い方向に進んでいると言え、これは大変に嬉しいことですね。
ところで、日本の不動産業界における悪慣習として、売買手数料の片道3%を「両手取り」(合計6%を得る)ために業者が売りにだされた物件情報を「抱え込む」という問題が、よく指摘されていますよね。アメリカのように情報の即座の公開が義務付けられていれば、業者はその物件を一番高く買ってくれる(つまりは一番欲しがっている)買い手と売り手をつなぐことができます。一方で、一定期間、情報を抱え込むことが違法でない日本では、売主と買主の効用が最大化されません。業界のインセンティブを変えるなどして、このような悪習慣を解消していくことはできないのでしょうか。
関田: これはなかなか根深い問題なんですよね。過去に、いくつかの不動産会社による新しい取り組みは見られましたが、一企業の力では業界全体を変えるには至らなかったという感じです。個人的には、国交省が業者の売買手数料の上限を撤廃することが良き変化を生み出すことになると思っています。手数料が完全に自由化されて、個々の不動産会社に自分達の強みを発揮させる方向に持って行くことが、最終的には業界とお客様の両方のためになる。例えば、手数料の安さを売りにする会社も出てくるでしょうし、反対に手数料を高くして質の高いサービスやスピード感を売りにする会社も出てくるでしょう。優良な物件を提案できる業者であれば、10%などの高額な手数料を払いたいというお客様がいても何ら不思議ではないと思います。手数料に上限があることは、一見顧客にメリットがあるように感じますが、大きな視点でみると優良な不動産業者が誕生する芽を詰んでおり、顧客の不利益になっているのです。
加藤: 確かにそうですね。私も一人の不動産投資家ですが、優秀な営業マンや業者に対しては、高い手数料を払っても十分に割が合う、むしろ値引きなどはしないでより優良なサービスを提供してほしいと感じています。例えば、富裕層向けの金融商品を扱う世界では、ファンド・マネージャーに支払う報酬について法定の上限はありませんね。
もし規制が撤廃され、業者側がより切磋琢磨することにより多様で優良なサービスが生みだされることは、不動産業界にさらに優秀な方々が集まってくることにも繋がると思います。そうなることで、不動産投資家となる市民の数もより増えていくのでしょう。このような「正の循環」が根付けば、街や都市はより魅力的に変わりますし、より多くの個人が経済的自立を手に入れることに繋がりますね。
投資家と不動産業者の利害を一致させていくには
加藤: ここからは、実践的な不動産投資についてのご意見を伺っていければと思います。今後の日本の人口減少を考えると、マクロとして住宅需要は減っていくものと思います。現在の金利水準は金融緩和によって大変低いものの、都市部を中心として不動産価格はかなり上昇してきたため、不動産投資物件の表面利回りや借入返済後の利回りの魅力度は、5年前と比べると落ちてきています。これからの日本の不動産投資について、関田さんはどの様に見ていらっしゃるのでしょうか。
関田: はい。マクロで見た私の基本感も同じで、全体として投資の魅力度は落ちてきていると考えています。金利はこれ以上は下がりようがないですし、買取業者としても個人不動産投資家としても、なかなか難しい状況にありますよね。
ただし、人口については総人口の変化だけでなく、年齢別で見た変化や、地域別の動向など、より細かく捉えていくことは大切です。例えば、これからは総人口よりもかなり早いスピードで、生産年齢人口が減っていきます。これは、住宅を作る側の人が使う側の人よりも大きく減り、全体として需給が締まる要因とも考えられます。また、空き家を含めた住宅ストックは確かに増えていますが、取り壊されていないからといって、もう誰も住まないであろうかなり古い物件までを供給に含めて需給を考えてしまうのも、間違いでしょう。
これはいつの時代もそうですが、不動産投資を考える上で大切なのは、日本全体というより、その物件がある各地域で見た需給バランスです。日本の総人口の減少があったとしても、住みたい人が多いエリアの賃料は引き続き強いと思います。場所さえ間違えなければ、賃貸経営の魅力は引き続き担保できるというのが、私の基本的な考えです。
一方で、既に過疎化が深刻なエリアは、更に悪くなっていく可能性が高いと思います。国としてもコンパクトシティを推奨し、社会インフラをなるべく狭いエリアに集中させる方向に動いていますので、投資の魅力度が高いエリアは東京、大阪、名古屋などの主要都市の中心地、またその都市圏の周辺部などに限定される状況が続くでしょう。
加藤: なるほど。日本全体というマクロ的視点のみで物事を単純化して理解してしまうことには、注意が必要ですね。日本の人口が減るからダメ、空き家が増えているからダメなどという「思考のショートカット」で結論を出してしまうのではなく、現実をより深く見ていくことは大切だと思いました。そして、対談の前編でお話を頂いた、既存の不動産の改善や活用をしていくことが人々の生活や街を豊かにするという不動産投資の本質に立ち返った理解が、より大切になってきているとも思いました。
ところで弊社WealthParkでは、アジアの投資家の日本国内への投資物件の管理サービスを提供しているのですが、諸外国の方々の日本の不動産投資を後押しすることは、日本の不動産の価値を引き上げる大きな力になります。世界を見渡しても、都市部や観光地などでは、国外のマネーを上手に活用して街の活性化を図っています。そして、外国人という新しい参加者が増えることは、先ほどあった売買手数料の「両手取り」などの望ましくない日本の商慣行を見直していく、よい圧力になるとも思います。
物件の利回りを上げるには、運用コストの見極めが大切
加藤: 関田さんの書籍の中では、収益を上げるための物件運用術をご紹介されていらっしゃいましたよね。そのあたりも少し紹介していただけますか。
関田: そうですね。とても単純なことなのですが「何に費用が多くかかっているかを見極め、それらを一つ一つ見直していく」ことが大切に思います。例えば、物件の共有部分の清掃は、管理会社様に依頼すると少し割高なんです。最近はお掃除要員の方と繋がれるマッチングアプリがあるので、私はそのアプリを通じて清掃をお願いできる様に仕組み化しています。管理会社にお願いするのと比べると、約半分から1/3のコストで済みますので、物件で毎月数万円の節約になります。チリも積もれば山となります。このような細かいコストを複数積み上げ、そして10年20年と長期に渡って積み上げていくことは、不動産経営においてかなり大きな違いをもたらします。マッチングアプリのような、新しく生まれたテクノロジーの力を不動産経営に取り込んでいく努力は大切ということですね。また、各物件の退去時には、原状回復だけでなくお金をかけてバリューアップを検討し、賃料を数千円引き上げる様な努力にも頭を使っていくべきだと思います。
加藤: ありがとうございます。ご著書では、誰しもが取り組める実践的な方法、そして個人としての失敗談も多く紹介してくださっていたので、もう一度、見直してみます。さて、最後の質問となりますが、関田さんが足元で取り組まれていらっしゃる投資案件や、次に挑戦したいフィールドなどあれば、ご紹介頂けませんか。
関田: はい。直近では、山手線圏内で借地の中古一棟RCマンションを購入しまして、今はその物件のバリューアップに注力しています。また、不動産の小口投資(クラウドファンディング)についても始めました。賃料収入を配当の原資とする手堅い案件に投資をしていますが、将来的な売却益をリターンの原資とする案件は除いています。不動産投資の新商品である不動産クラウドファンディングは、多くのプレーヤーが新規参入していますが、二回目以降のプロジェクトのための実績作りとしての一回目のプロジェクトには優良案件が多いとの印象があり、そのような案件にも注目しています。
加藤: 小口不動産の商品は、相続時の節税対策として使えるものも出てきましたし、注目されていますよね。ただ、より自分の裁量が入れられる個別不動産投資も、引き続き学びが多く魅力的と思いますが(笑)。
関田: 私もそう思います(笑)。ただ、市民にとって新しい投資の選択肢が増えることは、業界のサービスがより良くなる過程でもあり、良い変化だと思っています。
加藤: 本日は長年、不動産業界で活躍されているプロでありながら、個人投資家としても多様な不動産投資を経験されてきた関田さんに、業界の事情にまで踏み込んだお話をざっくばらんにさせていただき、大変に勉強になりました。ありがとうございました。