皆さんは、ご自分の家系図をお持ちですか? 今回、WealthPark研究所が対談したのは家系図作成における日本最大手、家樹(かじゅ)株式会社の田代代表です。戸籍や歴史資料を紐解き、人のルーツを明らかにするというユニークな事業を手掛けられています。
家系図が名家や武家だけのものだという考えは、全くの間違いのよう。「自分のルーツを知るとは、過去を飾るためではありません。今の自分の輪郭をはっきりさせ、よりよく生きるためのものです」という田代代表の言葉には、家系図が持つ静かで確かな力を感じます。本対談では、家系図とは何か、どのように作るのか、そして大相続時代におけるその意義とは、などをお話ししました。

田代 隆浩(たしろ たかひろ)家樹株式会社 代表取締役:
1983年東京都出身。法政大学在学中に司法書士資格を取得し、広告代理店や法律事務所での研鑽を経て2012年に独立。2017年に家系図専門の家樹株式会社を創業すると、2022年より4年連続で利用者数No.1を達成し、国内最大の家系図企業へと成長させた。
2025年には海外日系人向け「Japan Genealogy Connect」や土地歴史調査「土地物語」を始動。YouTube「家系図大学」や全国での講演活動を通じ、家族の歴史を紡ぐ文化の普及に尽力している。プライベートでは2人の娘を持つ父。

加藤 航介(かとう こうすけ)WealthPark研究所 代表 / 投資のエバンジェリスト :「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための研究、啓発のための情報発信を行なう。2021年より現職。加藤航介のプロフィールはこちら
― 系図ではなく体験、教科書の歴史が自分事に―
加藤:本日は家樹株式会社の代表取締役、田代さんとお話しさせていただきます。御社は現在、日本で最も多くの家系図を作られている訳ですが、なにせ家系図は普段の生活ではなかなか意識しないものでして、今日は是非とも色々教えてください。
田代さんは家系図について「人生を豊かにするためのもの」「歴史と自分が交わる体験」などの表現されており、中身を聞くのが大変楽しみです。
まず、家系図サービスで何を提供されようとしているのか、教えていただけませんか?
田代:本日はよろしくお願いします。私たちが家系図を通じて提供したいのは、単なる「系図」というモノではなく、知ることによって心の在り方や行動が変わる「体験」です。家系図を作ること自体はゴールではなく、家系図をきっかけに、人生が少し前向きに少し豊かになる。そんな姿を目指しています。
加藤:早速、脳みそが揺さぶられますね。どうして家系図が「体験」になるのでしょう。
田代:はい。それは、先祖の話は完全に「自分の話」だからですね。歴史が好きで、お城を見に行ったり、戦国武将のことを調べたりする方は多いですよね。それはそれで面白い。でも、基本的には他人事です。ところが先祖のことになると、自分と切り離せません。知らない先祖が分かるというのは、知識としての発見であると同時に、自分の土台が見える感覚でもあるのです。
加藤:なるほど。歴史が「自分事になる」ということですね。田代さんご自身は、相続や登記の専門家である司法書士であり、現在の家系図の事業は司法書士事務所の一業務としてスタートされたと聞きました。
田代:そうですね。最初は相続の仕事の延長としてしか考えていませんでした。ただ、始めてみると非常に魅力的で、お客様も喜んでくれる。割とすぐに、これは相続の枠の中に置くにはもったいない、と思うようになりました。家系図は作って終わりではなくて、作った後からその価値が始まります。依頼者の自分の人生の見え方が大きく変わる。国家資格の司法書士として届けるサービスとは大きく違う魅力を感じました。

―祖先が名家であるかは関係ない。普通の家の歴史が日本の歴史と交差する―
加藤:家系図を作られた方は、具体的にどんな瞬間に自分と歴史が繋がるのでしょうか。また、先祖が武家であるとか、名家であるとかでないと、調べても意味がないのかなとも思ってしまいます。
田代:それは全く違いますよ。我々は戸籍で遡れる江戸の後半ぐらいまでと、その前の時代までも家を遡れる2つのノウハウを持っています。そして、ほとんどの場合、皆さんの先祖の歴史は、教科書で学ぶ歴史と大いに交わります。
また、家系図と聞くと先祖の名前が並んでいる系図をイメージをされるかもしれませんが、我々のプロダクトはそれを超えて、日本の歴史との自分の祖先の接点を分かりやすい形をオリジナルのビジュアルブックに表現してお渡ししています。ただの報告書ではなくストーリーがある本なのです。
私自身の先祖を調べていった時も、教科書や資料集で見てきた歴史の有名な場面と、ごく普通の自分の家が不意につながる瞬間が出てきました。歴史の有名な人物や出来事は、学校では「知識」として学びますよね。
でも、その裏側で自分の先祖がどう生きていたかなんて、普通は想像もしない。ところが、調査を深めていくと、「この時代に、この場所で、こういう形で関わっていたらしい」という手触りが出てくる。そこで初めて、学んできた歴史と自分が交差する感覚が生まれました。
加藤:御社の製品の現物を見せていただきましたが、ただただ驚きました。まるで社会の授業に使った教科書や資料集のように、自分の祖先目線のオリジナルの書籍がカラー刷りで何百ページで製本されているのです。歴史が自分の家の物語として立ち上がってくるとは、こういう事かと思いました。
田代:はい。一般の歴史の勉強は、やはり他人事でしかない。でも、自分事として触れると、手触り感のある体験になるんですよ。日本は世界一長く続いている国とも言われますが、その“長さ”の意味も、自分の先祖の線を通して見たときに、初めて腑に落ちる。だから、家系図は知識を増やすだけではなくて、感覚を変えるものだと思っています。

―家系図は作ってから後にその価値が発揮される―
加藤:私は投資と社会の繋がりを切り口に、セミナーや執筆活動をしておりますが、特に年配の方とお話しすると「自分は何者か」「何を大切にして生きているのか」が大切なテーマになってきます。それらに向き合う触媒として御社の独自の家系図はとても面白いように思います。
ところで田代さんは、家系図を「人生を豊かにする終活」とも表現されていますが、終活という言葉のイメージを変えたい、という意図もあるのでしょうか。
田代:ありますね。終活はどうしても「死に向かう準備」という、後ろ向きの印象が強い。でも家系図は、今の自分を前向きに捉え直すきっかけになります。先祖や家族のことを想い、結果として今の自分自身を大切にする人を増やしたい、というのが私たちが届けたい世界です。ですから、終活の一部であっても、何かの整理ではなく、人生を豊かにする取り組みとして提示しています。
加藤:家族を想う、先祖を想うことが、今の自分を大切にすることにつながる。良い循環ですね。そして「自分のルーツを知りたい」という関心は、若い世代にも広がり得るのでしょうか。
田代:そう思います。むしろ若い世代ほど相性が良い、と思う事は多いです。家系図の印象として、おじいちゃん、おばあちゃんが作るものとのイメージをお持ちの方も多いですが、実は子どもが手がけた方がスムーズに作成が進みます。
たとえば子どもが「うちの家のことを調べたい」と言うと、親も祖父母も喜んで協力をしてくれることが多いからです。「じゃあ私は写真を探す」「おじさんに話を聞いてみる」と、家族の協力が集まってくるのです。そして家族から出てきた資料と、我々の調査でオリジナルの作品が完成していくのです。この家族で一つのテーマに向かって動く体験はかけがえのないものになります。
加藤:確かに、家族で一緒にできる学びは貴重ですね。私が取り組むお金の教育もそうです。家系図は子供や孫への歴史の教育教材にもなりそうですね。

―全ての子供が歴史好きに?家系図は最高の教育教材―
田代:はい。「一般的な歴史」ではなく、「自分と切り離せない歴史」の方が、圧倒的に子供は興味を持ちます。歴史の年号や出来事を覚えるだけではなくて、自分の家族の物語として歴史に触れる訳ですので。
そして、家族の物語を知っている子どもほど、自尊心や社会性が高く、ストレスが少ない、といった研究もあります。私自身も実感として、家族の存在が背後にあると思えると、行動が整うことがあると思っています。「見られているから」という監視ではなく、「支えがあるから」という感覚ですね。
加藤:素晴らしいですね。歴史を知ることで、家族を「支え」として感じられる。資産家のご家庭も普通のご家庭も、お金の問題で家族関係が乱れることは非常によくありますが、家系図という「共通のテーマ」に取り組むことで、その問題は大きく解消しそうです。
田代:はい。家系図は、相続などの損得で親族を分断させるのではなく、家族が同じ方向を向くために大きな力を発揮します。先祖のことを調べる中で、「この人がいたから今がある」と自然に感じられると、家族に対する見方も変わる。結果として、それぞれが争いをさけて、人生を丁寧に生きようと思える。それも家系図の魅力だと思います。
加藤:「先祖が見つかる、自分が広がる」とは、そういうことですか。
田代:ルーツを知ることは、過去を飾ることではありません。今の自分の輪郭をはっきりさせることです。家系図は、先祖を知るためだけでなく、今の自分を大切にするための入り口になる。だからこそ、人生を豊かにする力がある、と伝えたいですね。
加藤:家系図とは、相続や手続きの話に閉じない人生の再編集といったところでしょうか。よく分かりました。

―家系図とはどのように作られるのか―
加藤:続いては、家系図はどのように作られるのか、について教えてもらえませんか。
田代:日本で家系図づくりをする場合、まず基本になるのは戸籍です。戸籍を一つずつ辿っていくことで、親、祖父母、曾祖父母へとさかのぼっていきます。ただ、実際にやってみると分かるのですが、これは単純な作業ではありません。古い戸籍は手書きですし、書式も時代によって違う。読む力と、つなげる力の両方が必要になります。
加藤:確かに、戸籍というと一枚の書類を想像しがちですが、実際には膨大な情報の積み重ねなんですよね。相続の時に体験しました。
田代:そうですね。なので、家系図作成は「誰でも簡単にできる作業」ではないんです。
そして、江戸時代後期より前になりますと、その方法は様々です。ご家庭に残っている資料、行きついた地域の図書館や役所などにある郷土資料や古文書などをたどります。多くの場合は、出張をして資料を調べますので、作成には半年や1年などかかります。
スキルとしては、江戸末期までは戸籍を読む司法書士のスキル、それ以前は文献を探して情報を整理する歴史のプロフェッショナルとしてのスキルが求められ、弊社でもそのような方が働いています。
ただし、お客様にとって大事なのは「どう作るか」よりも「作った先に何が見えるか」なので、この辺のテクニックは任せてもらえればと思います。

(後編に続く)